ニュースメディアを守るために:アドブロックについてパブリッシャーと広告主が検討すべき3つの課題

更新日 2020年04月29日

広告主は今、ブランドセーフティを守るために、新型コロナウイルス(COVID-19)関連のあらゆるコンテンツに自社の広告が表示されないように、思い切った対策を講じています。そして、限られたリソースと情報で意思決定しながら、新たなスタンダードに適応しようとしています。

新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックの中、広告ブロックや関連記事のブラックリスト化が進み、ニュース配信メディアの広告収入が急激に減少しています。しかし、広告主の多くは、たとえ危機が日常生活のあらゆる面に忍び寄ってきたとしても、ニュースサイトとのつながりを完全に断つことは好ましい戦略ではないことを理解しているはずです。

自宅待機を続ける人々の多くが、最新情報や今後の見通し、そしてこの不安定な状況を乗り切るための計画について伝えてくれる報道に大きな関心を寄せています。しかし、ニュースの視聴がかつてないほど増えているにもかかわらず、大手メディアでさえもスタッフや予算をギリギリまで切り詰めねばならない状況に陥っています。USA Todayは、3月のニュース配信メディアの広告収入が10%~25%減少したと報じており、購読者数が急増しているにもかかわらず、第2四半期には減少率が30%~50%にまで上昇すると予測しています。

こうした状況を乗り切るための近道はありません。しかし、私たちは今こそアプローチを変え、業界をより良くするための戦略を考えるべき時だと考えています。本ブログでは、広告業界が行動を起こすことの重要性を改めて認識し、ニュースメディアのサステナビリティを支えるために何ができるのか、検討してみたいと思います。

倫理面での課題

広告主は、情報、特にニュースの自由な流通を資金面で支えるという重要な役割を担っています。Criteoは広告主の皆さまには資金面の支援だけでなく、メディアの側が厳しい判断を下さざるを得なかった場合の影響力について、十分に考慮していただきたいと考えています。今、人々が求めているのは、社会全体の利益につながる正確で信頼性の高い情報ソースへのアクセスです。つまり、人々がいつでも必要な情報を入手できるように、ニュースメディアへの経済的な支援を通じて、彼らを支えていくことは大きな社会的意義を持っているということです。

USA Todayの親会社であるGannett Mediaは米国最大手の新聞社の1つですが、先月、全社規模の一時的解雇と賃金カットを発表しました。当然ながら、これは新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けての判断です。他の大手企業も同じような苦境に立たされており、彼らがキュレーションし、制作し、配信できるニュースの量は明らかに減ってきています。Gannettのような大手でさえもこうした状況であることを考えると、より小規模なローカルニュースのパブリッシャーが、最悪の事態とは言わないまでも、同様の苦境に陥っているのは間違いないでしょう。

経済面での課題

皮肉な話ですが、パブリッシャーの収益低迷をよそに、広告主とブランドにとって現在の状況は非常に大きなチャンスであり、デジタルメディアに資金を投入するには、かつてないほど絶好のタイミングだと言えます。Criteoのパブリッシャーパートナーシップ担当副社長マシュー・ホグ(Matthew Hogg)は、「デジタルメディアの入札額はかつてないほど安くなっており、CPMはすでに30%~40%も減少している」と話しています。つまり、広告主は品質もパフォーマンスも最高のメディアを、かつてないほど安価で落札できるチャンスを手にしているということです。

また、ブランドが見落としているかもしれない他の注目すべきメリットとして、信頼の構築があります。つまり、この状況はブランド各社が信頼性に優れたニュースメディアとの新たな関係を構築できるチャンスでもあり、このチャンスを上手く活かすことができれば、実際のニュースの内容に関係なく、今後数年間にわたって、消費者や見込み顧客のブランドイメージに良い影響を及ぼし続けることができるでしょう。

現実面における課題

ニュースメディアを資金面で支えるという倫理面でのポリシー、あるいはお得な入札価格のメリットを利用するというスタンスのいずれをとるにしても、今はどの企業も難しい判断を迫られている状況に変わりはありません。また、パンデミックが話題の中心となっている今、アドブロックやブラックリスト化に対処するなど、より直接的なアプローチをするという選択肢もあります。

とは言え、「コロナウイルス」や「COVID-19」といった言葉が出てくるコンテンツすべてをブロックする必要はありません。実際、ブランドが積極的に関わりたいと思えるような、希望に満ちた記事もあるのです。広告主は「COVID-19」に完全一致するすべての言葉をブロックするのではなく、「コロナ犠牲者」や「コロナ死亡者数」といった悲観的な用語をフィルタリングすべきです。こうしたシンプルな対策だけでも、パブリッシャーの収益には多大な影響を与えることになります。

CNBCは最近、次のように書いています。「社会のあらゆる側面にウイルスが侵入しているが、広告業界の専門家は“パンデミック関連の記事への広告配信に対しては、偏見を持つべきではない”と主張している」実際、サイトトラフィックやページ閲覧数が増加しているにもかかわらず、パブリッシャーや報道機関からは資金が失われています。しかしそうした状況の中でも、広告業界にはプラスの影響をもたらすことのできる機会、そしてツールがあります。

多くのパブリッシャーが有料コンテンツの壁をCOVID-19関連のコンテンツまで下げ、それぞれの役割を果たそうとしています。また、一部のアドテク企業は、キーワードブロックを回避するためにニュースパブリッシャーの多くをホワイトリスト化しており、「広告ブロックが有効化されたとしても、ブランドセーフティは維持できる」という認識が広告主に浸透しつつあります。

最近AdAgeに掲載されたインタビューで、 Johnson & Johnsonのグローバルメディア/デジタルエクセレンス部門、上級ディレクターのチャッド・ミジー(Chad Mizee)氏は、「COVID-19関連のコンテンツを今後ブラックリスト化するつもりはない」とした上で、次のように述べています。「COVID-19に関しては、私は個人的にも多くのフェイクニュースが広まったと考えており、当社も初期の段階においては、これらのコンテンツに一定の制限を設けていました。しかし、3月下旬以降はこうした制限をすべて緩和しています。なぜなら、当社のパートナーでもあり、有益な情報を一般に提供しているパブリッシャー各社に資金面での支援を継続することは、極めて重要だと考えたからです」

パンデミックの終息について先が見えない中で、最も重視すべき情報元の1つがニュースメディアです。そしてCriteoの重要なミッションは、メディアによる自由な情報の発信を支え、それをこれからも継続していくことにあります。

マシュー・ホグとの対談動画(英語版)を、以下のリンクからご覧いただけます。