ビッグデータ利活用、その担い手は誰か?

 

企業競争力を左右するビッグデータ

2018年末、日本経済新聞の紙面に、米アパレル大手GAPのアート・ペックCEOの「アパレル産業はデータ産業化した」というコメントが掲載されました。GAPでは全世界に展開する1300店舗のうち数百店舗を閉鎖することをすでに発表しており、ペックCEOは「時代遅れの店舗を閉鎖し、前進する」と述べ、顧客データの活用など新技術への投資を通じ、時代の変化に適応する姿勢を示しました。アパレル業界に限らず、今やどのビジネスにおいても、データの利活用は成長を左右する極めて重要な要素となっています。従来のように、経営者や幹部の勘や経験、人脈といった属人的な能力を頼りにする企業経営は、もはや通用しない時代です。これからの企業経営には、社内外に散在する膨大なデータ=ビッグデータを収集・分析し、その結果に基づいた経営戦略を打ち出すことが欠かせなくなります。ビッグデータの分析力こそ、企業競争力の要となるのです。

ビッグデータ利活用の恩恵が特に大きいのが、小売業界です。小売業界では今、ネットとリアル店舗の融合を図る「オムニチャネル化」が加速しており、小売業者は消費者の購買行動や嗜好の多様化に対応するために実店舗、PCやモバイルのECサイト、SNSサイトなど様々なチャネルを揃える必要にかられています。このオムニチャネル化には、ビッグデータの活用が欠かせません。

従来の顧客分析は、実店舗のPOSやECサイトの購買履歴など、単独チャネルでの顧客行動分析のみで足りていました。しかし、ネットとリアル店舗、複数のモバイルにまたがるオムニチャネル戦略では、複数チャネルの相関関係を鑑みた上で、顧客の行動を分析・理解しなければ意味がありません。その分析基盤こそが、すべてのチャネルをシームレスにつないで収集したビッグデータなのです。

 

「データサイエンティスト」育成が急務

では、まだビッグデータの利活用を始めていない企業は、どのようにして始めればよいのでしょうか?まず、必要なのはビッグデータ分析の担い手「データサイエンティスト」の確保でしょう。ビッグデータの活用は企業の経営方針と密接に関係するため、社外に頼らず、なるべく社内で人材を育成し、体制を整えようとする企業が多いと言われています。一方、人材がいない・育成する時間がない・すぐにビッグデータの利活用を始めたい等の理由でアウトソーシングを選ぶ企業もあります。企業がアウトソーシングする・しないにかかわらず、求められるのは「データサイエンティスト」であり、そのニーズはますます高まっています。

しかし、現在のところ「データサイエンティスト」には明確な定義がなく、対応領域も広いことから、さまざまな課題も生まれています。特に企業側の期待と、データサイエンティストのスキルとのミスマッチによって、データ分析から期待通りの成果が得られないケースが頻発しているといいます。これは、データサイエンティストにはデータ分析のスペシャリストとしての能力だけでなく、その企業のビジネスについての理解、高いコミュニケーション力などを有するジェネラリストとしての能力の両方が求められることの証左に他なりません。ビッグデータを分析しその結果をビジネスに活かすためには、社内の事業部門との調整や、経営層に対する説明が必要になるからです。

以上を鑑みると、データサイエンティストの育成については、新規に人材を採用して育成するよりも、社内のITエンジニアからのステップアップが現実的です。ビッグデータの分析にはインフラ構築やプログラミングの経験も求められるので、企業のIT部門で実務を積んだITエンジニアが、データ活用に必要なスキルを習得することが、結局は一番の近道なのではないでしょうか。そして非IT部門の社員も、ビッグデータについて基礎レベルの知識を持つことも欠かせません。彼らが、ビッグデータ分析を担当するIT部門の社員と活発にコミュニケーションできると、プロジェクトや社内調整を円滑に進めることができるからです。もちろん、ビッグデータ分析を外注する際も、外注先の担当者とのコミュニケーションを円滑に行うのに必要な知識は最低限持っておきたいものです。

今まさに始まったばかりのビッグデータの時代。ビッグデータをビジネスの「武器」として活かすためには、データ分析の実務を行う・行わないにかかわらず、プロジェクトに関わる社員全員が「じぶんごと」としてビッグデータに興味・関心を持ち、必要に応じて知識を得られる学習の場を確保することが、企業に求められています。