知っておきたいMaaSの基礎知識と広告への影響

100年に1度の大革命?MaaSとは何か

私たちの生活を大きく変えるといわれているMaaS(マース、Mobility as a Service)。2018年秋にはあのTOYOTAとSoftbankが共同企業を立ち上げ、MaaS事業を展開していくことを発表し、大きな注目を集めました。一般的には「モビリティ革命」と表現されることが多いMaaSとは、そもそもどのような概念を指すのでしょうか?そして私たちの生活やビジネスをどのように変えて行こうとしているのでしょうか?

MaaSの定義は国や団体によって異なりますが、日本では、国土交通政策研究所による定義=「ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな『移動』の概念である。利用者はスマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃等の決済を行う例が多い」がよく知られています。

もともとMaaSをいち早く提唱したのは、北欧のフィンランドです。フィンランドでは2005年頃から、ICTを用いて公共交通をより使いやすくする研究を運輸・通信省が開始、その後、システムの構築を進め、2014年に首都ヘルシンキで行われたITSカンファレンスでMaaSの概念が発表されました。その後、欧州を中心にMaaSの概念が急速に広まった背景には、自家用車、いわゆる「マイカー」の普及が生んだ様々な弊害や問題を解消しようという動きがあったと考えられています。

つまり、マイカーにはいつでも好きなときにプライベートな空間で移動できるというメリットがある反面、交通渋滞や事故を引き起こし、環境負荷も大きい(国土交通省の試算によるとCO2排出量は鉄道の7倍、バスの2倍以上)というデメリットがあり、公共交通機関が少ない地方ならともかく、人口が多く交通機関が発達している都市における交通手段としては効率が良いとはいえません。

そこで欧米では、マイカーをやめて電車やバスなどの公共交通機関に回帰する動きが見られるようになり、廃止されていた路面電車をトラムとして復活させたり、コミュニティバスの運営を始めたりして、使い勝手の良い公共交通網を整備する都市が出てきたのです。その結果、交通渋滞や事故が減っただけでなく、空洞化しつつあった都市中心部に人が戻り、活気を取り戻すケースも見られるようになりました。こういった流れを背景に生まれた概念こそが、MaaSなのです。

そして、MaaSの普及に拍車をかけたのが、インターネットやスマートフォンの普及です。カーシェアリングや自転車シェアリング、アプリ配車といった新たなモビリティサービスが次々に登場。マイカーを購入・維持したりタクシーを利用したりするよりもずっと費用が抑えられ、決済もアプリでできる便利さから、あっという間に世界で使われるようになりました。今では、リーズナブルでエコなMaaSは持続可能な社会の実現に欠かせない概念として、自動車業界のみならず様々な業界で注目を集めるようになっています。

広告業界への影響は?

では、広告業界はMaaSによって、どんな影響を受けるのでしょうか?最もわかり易い例としては、2018年に日清食品が都内で走らせた「どん兵衛」のラッピングタクシーが挙げられます。このラッピングタクシーの運行は、DeNAが始めた取り組み「Project Mov」(個別のシーンやニーズに応じた新しい移動体験を提供する取り組み)の一環として行われたもので、DeNAが開発した配車アプリ「MOV」を利用して配車すれば、無料で目的地まで運んでくれるというサービスが大いに話題を呼びました。ラッピングタクシーを走らせることによってスポンサー企業(ラッピング広告を出す企業)は、視覚効果によって乗客の商品認知や購買意欲を高める効果が期待できるだけでなく、乗車中の客とコミュニケーションを図り、社内での試供品提供や試用体験、専用コンテンツの掲示など、自由度の高い広告戦略を展開できることができます。

一方のタクシー事業者は、普段はあまりタクシーを使う習慣のない層を新規顧客として取り込むことができる上、スポンサー企業とMOVから広告宣伝費が得られるため、新たな収益モデルの確立にもつなげることができます。

こういったMaaSを使った広告戦略は次々に打ち出されており、最近では広告を施した車での商品配送や、実店舗への送迎サービスなども活発に行われるようになってきました。こういったMaaSによる広告戦略では、単に視覚に訴えるだけではなく、「移動」をコンセプトに、どのような顧客体験を提供できるかどうかが成功のカギになると考えられています。考えてみると、小売にせよ旅行にせよ、不動産にせよ、「移動」と無関係の業界はほとんどありません。むしろ、ほぼすべての業界でMaaSによる変革の影響を避けることはできないと言えるでしょう。「世界にゲームチェンジをもたらす」と指摘する声もあるほど、大きな可能性を秘めたMaaS。その変化の波が本格的に及ぶ前に、まずは自社の商品やブランド、サービスはMaaSとどのような関連性があるのか、検討を始めるべきときが来ています。