押さえておきたいオムニチャネルマーケティングの基本

最近、よく耳にする「オムニチャネルマーケティング」。意味は何となく理解しているけど、なぜそれが重要なのか、具体的にどんな戦略が有効なのかわからない、という人も多いはず。そこで今回は2回にわけて、実際にオムニチャネルマーケティングを実践する企業の成功例を通じて、オムニチャネルマーケティングの意義や課題を探っていきましょう。

■マルチチャネルとオムニチャネル、どこが違う?

そもそも、オムニチャネルマーケティングという言葉が登場する前には、「マルチチャネルマーケティング」という言葉がよく使われていました。マルチチャネルマーケティングとは、文字通り、顧客にSNS、モバイル、ダイレクトメール、実店舗など「複数のチャネル」を提供するマーケティング戦略のこと。各チャネルは他のチャネルから分離・独立していて、各チャネルが独自の目標を掲げ、独自の戦略を行い、基本的には別々に機能しています。現在も小売業者の多くが、このマルチチャネルマーケティングを採用しています。

しかし、このマルチチャネルマーケティングには決定的な弱点があります。それは、各チャネルが1人の顧客に対してバラバラのアプローチをするため、アプローチに一貫性・関連性がなく、顧客にストレスを与えてしまうということ。例えば、デスクトップで白いシャツを検索したユーザに対して、モバイル広告ではワンピースの広告を表示したり、ダイレクトメールでは冬物セールの案内を送ったりしても、各アプローチの関連性が低いためにあまり効果はなく、それどころかユーザは広告を「わずらわしい」とすら感じてしまいかねません。

そこで登場したのが、オムニチャネルという考え方です。オムニチャネルは、デスクトップからモバイル、オンラインからオフライン、またその他のすべてのタッチポイントを横断したチャネル全体で、一貫して個々の顧客に最適化された体験を提供するマーケティング戦略のこと。たとえば、あるユーザがノートPCで見たシャツは、少し前にスマートフォン上のFacebook広告で閲覧したシャツと同じで、さらに2日後に受け取ったセール案内のメールも同じシャツに関するものだとしたら、これらのメッセージは発信するチャネルが違うにもかかわらず一貫性があり、ユーザが利用するデバイスに依存することもありません。つまり、オムニチャネルマーケティングとは、ユーザがチャネルの違いを意識せずに商品やサービスを購入することができるようにする戦略なのです。ユーザを取り巻くチャネルがますます多様化する中、チャネルを問わず一貫性のあるメッセージを送ることができるオムニチャネルマーケティングにますます注目が集まっています。

■主役はチャネルではなく、ユーザ

オムニチャネルマーケティングを実施するにあたって、マーケターの皆さんがまず取り組まねばならないのは、チャネル中心からユーザ中心へマインドセットを転換することです。考えてみれば当たり前のことですが、チャネルがどこであれ、ユーザは店やブランドに常に顧客として「大切にしてもらいたい」「安心したい」「歓迎されたい」と思っています。

たとえば実店舗で大切に丁寧な扱いを受けていたのに、ネットショップでそっけない扱いを受けると、たいていのユーザはがっかりして、ストレスを感じてしまうでしょう。多くのユーザは自分の好みを覚えておいてくれること、希望に応えてくれること、さらにどのチャネルでも同じように扱われることを望み、ストレスフリーの効率的なショッピング体験を求めています。

事実、ユーザは近年、ますます質の高いショッピング体験を求めるようになっています。

消費者動向に関するコンサルティング会社・Walkerが行った調査では、主要なブランドは2020年までに、自社ビジネスの差別化要因として「買い物客の体験」が「価格」や「製品」を上回ることになるだろうと回答しています。この変化に応え、ユーザに選ばれるブランド・企業であるためには、ユーザ一人ひとりにカスタマイズされた体験の提供を通じて、彼らをリードしていく必要があります。それこそが、オムニチャネルマーケティング戦略なのです。

■成功のカギは物理的な拠点を設けること

オムニチャネルマーケティング戦略を実践する上で、成功のカギとなるのが、物理的な拠点をもつことです。実店舗とまではいかずとも、ショールームや期間限定のポップアップストア、流通センターなどを活用してユーザとコミュニケーションが取れる物理的な拠点を持つことがオムニチャネルマーケティング戦略の成功に大きく貢献することは間違いありません。このことは、Amazonによる実店舗進出の成功例を見れば明らかです。逆に、今すでに実店舗の運営に成功している企業は、デジタル化がもたらす影響を利用してアプローチを変化させています。また、先進的な小売業者は実店舗を再創造してよりインタラクティブでよりパーソナライズされた体験を提供しています。そうすることによって、ショッピングをもっと楽しく、社交的なものにすると同時に、顧客ロイヤルティを高めることに成功しているのです。

また、店舗をデジタル販売のためのショールームやオンライン注文用の出荷センターとして活用したり、あるいは商品をオンラインで購入し店舗で受け取るBOPUS(Buy on line、Pick up in store)オプションへの対応の場として活用する小売業者も増えています。