AIでマーケターの仕事はどうなる?

今や耳にしない日がないほど、急速に普及しつつ有るAI。様々な分野での活動例が報道されていますが、マーケティング領域における活用も日進月歩の勢いで進んでいます。「このままAIの活用が進めば、マーケターの役割はAIにとってかわられてしまう」という説もあるほどですが、果たして本当なのでしょうか?今回は、AIがマーケターの仕事にどんな影響を与えつつあるのか、実際のAI活用例をもとに見ていきましょう。

AIと機械学習、ディープラーニングの違いとは?

AIは新しい概念と思われがちですが、実はその歴史は意外と古く、最初にAIという言葉が使われたのは1950年代のことです。その後、何度かブームを引き起こしたAIですが、そのブームは主に専門家の間に限定的なものでした。しかし、今まさに起きているAIブームはこれまでとは異なり、私たち一般人の生活にも及び、社会のあり方自体を大きく変えようとしています。

その背景にあるのは、新たなAI手法「ディープラーニング」の登場です。従来、AIには主に「ルールベース」と「機械学習」の2つの手法がありました。下表のとおり、ルールベースとは人がアルゴリズムを作成し、それを機械に教える手法。そして、機械学習(従来型)は人が学習方法を設定し、特定のタスクをトレーニングにより機械に実行させる手法です。例えば白い犬の絵と黒い犬の絵を大量にAIに読み込ませ、人が機械に「色で識別しなさい」と指示を与えると、まだ解析していない犬の画像が出てきたときに、AIは犬の色を基準に白い犬と黒い犬を識別できるようになります。

一方のディープラーニングは機械学習をさらに発展させたもので、読み込んだデータから機械が自動的に特徴を抽出できるのが特徴。つまり、従来の機械学習は白い犬と黒い犬を区別するにあたって、人が「色で区別しなさい」と指示しなくてはなりませんでしたが、ディープラーニングの場合は人が指示を与えなくても、機械自ら「識別のポイントは色の違いである」ことを理解し、白い犬と黒い犬を識別することができます。

AIのマーケティングへの活用

AIはマーケティング分野でも活用例が増えており、特にユーザーや顧客のデータ属性や購買行動に関するデータ分析、広告のパーソナライゼーションなどに広く活用されています。活用手法としては、主に次のようなものがあります。

1)チャットボット

AIを活用したチャットボットを顧客からの問い合わせの対応に活用している企業も増えています。大手通販サイトLOHACOでは、顧客からの問い合わせに365日24時間、リアルタイムで対応するAIチャットボットを採用、月間で人間のコミュニケーター6.5人分に相当する件数を対応しています。対応件数が減った分、コミュニケーターが一人ひとりの顧客に時間をかけて対応できるようになり、結果として顧客サービスの質の向上につながっています。

2)レコメンド

顧客の好みや行動履歴を分析して、顧客一人ひとりに合わせたレコメンド広告を表示させる例も増えています。伊勢丹三越ホールディングスはAIを搭載したアプリ「SENSY」を導入。表示されるアイテムが好きか嫌いかを回答するだけでAIがユーザーの好みを学習し、各ユーザーが好きそうなアイテムを提案してくれるサービスを提供しています。

3)顧客分析

実店舗やECサイトを訪れた顧客の属性や行動を分析し、マーケティングに活かす。例えば中古車販売大手のガリバーでは、実店舗に来店した客の動きをヒートマップで可視化して分析、店舗の導線や接客の改善に活用しています。

マーケターの仕事はAIに奪われる?

このようにAIの活用例が増えるに従って、「近い将来、マーケターの仕事はAIに奪われてしまう」という説も聞かれるようになりました。たしかに膨大な量のデータを収集したり分析したりする作業は、人間よりも人工知能のほうが効率の面で圧倒的に優れています。したがって、マーケターの仕事の内、この種の作業がAIに取って代わられる可能性は高いでしょう。しかし、そのデータや分析結果を使って、全体的な戦略を練ったり具体的な施策を立案したりすることは今のAIには不可能です。また、顧客や取引先などとコミュニケーションを取ったり、信頼関係を築いたり、あるいは喜びを分かち合ったりすることができるのも、人間だけです。つまり、今、マーケターがすべきことは、「AIに奪われる可能性が高い仕事」がなくなることを不安に思うのではなく、「人間にしかできない仕事」を見極め、スキルアップを図ることです。そう考えると、AIは「人間から仕事を奪う敵」ではなく、データの収集や分析といった時間のかかる仕事を自分にかわってやってくれる「頼りになるパートナー」ということです、。AIを活用することによって浮いた時間を使って、人間にしかできない仕事の腕を磨き、マーケターとしてのキャリアアップを目指しましょう。