エージェントティック・コマースが台頭中――ただし、予想とは違う形で

エージェンティックAI は、ITバブル以来の最大のデジタルシフトを引き起こしつつあります。完全自律型の未来を予測する声もある一方で、より魅力的なのは今現実に進んでいる変化です。現在進んでいる「エージェンティック・コマース」へのシフトは消費者による買い物の方法を置き換えるものではなく、消費者やリテーラー、ブランドに新たな価値をもたらすよう、買い物体験を強化させるものなのです。

私が何よりもワクワクするのは、AIが完全に独立して行動する遠い将来像ではなく、現場で今まさに起きているAIによる変化です。今後10年は、ブランドやリテーラー、LLMプラットフォームがデータを基盤とした会話型の購買体験をどう実装するかが問われます。Criteoでは、信頼・相互運用性・高品質なコマースデータを土台にした実装こそが鍵になると考えています。その前提で、2026年以降のエージェンティック・コマースの見取り図を5点に整理します。

1. エージェンティック・コマースは、既存の購買行動を置き換えるものではなく、買い物体験を拡大する新しい選択肢に

これまで、さまざまなテクノロジーの移り変わりを見る中で、AIについては“現実的な楽観主義”で向き合うようにしています。過去30年のデジタルの変化を振り返ると、新しいチャネルは既存のチャネルを消し去るのではなく、選択肢として追加され、全体のパイを広げてきました。エージェンティック・コマースも同様に、従来の接点を一気に刷新するより、別レイヤーとして上乗せされる可能性が高いと見ています。

eコマースが台頭したとき、多くの人が実店舗の終焉を予測しました。しかし、蓋を開けてみれば、30年ほど経った今でも優勢なのは意外にも実店舗の方です。eMarketerによると、世界中のeコマース経由の売上は小売業者の総売上高の20% に過ぎません。今後5年間でさらに増加すると予測されていますが、仮にArk Investの予測通り、2030年までに eコマースの25%がエージェント型になったとしても、小売業者の総売上高の5%強にすぎないのです。同じような成長パターンの例は他にもあります。モバイル端末の到来により、デスクトップでのウェブ閲覧は一掃されませんでした。また、ソーシャルコマースが従来の eコマースを置き換えたこともありません。どれも既存体験に重なる、新たなエンゲージメント方法として加えられてきました。

エージェントティック・コマースにも同じことが言えます。一部では、AIエージェントが完全に自律して購入を全て管理する未来が予測されていますが、こうした変化のスピードは実際よりも過大に見積もられがちです。現状のエビデンスが示しているのは、急激な変革ではなく、段階的な進化です。エージェント型の仕組みは、リサーチや比較、チェックアウトの効率を高めますが、最終的な意思決定は引き続き人間に委ねられています。

消費者がエージェント型ツールを使いたいと考えるのは、時間を節約したいときや選択肢をシンプルにしたい時、そして適切な商品をベストな価格で見つけたい時です。こうしたツールは、ショッピング体験の手間を減らし、購入までの障壁を取り除きます。その結果、これまで購入をためらっていた商品にも手が伸びやすくなり、特定のチャネルから別のチャネルへ顧客を移すのではなく、オンライン・ショッピング全体の市場規模を広げます。

現時点のLLMプラットフォームが特に力を発揮するのは、リサーチや比較検討の場面です。ただ、最終的な購入判断は、引き続き人に委ねられます。エージェント体験は今後も進化していきますが、その広がりは、「時間の節約」や「選択肢の整理」といったニーズを確実に満たしながら、段階的に進んでいくでしょう。

2. エージェンティック・アシスタントは新たな検索レイヤーとなり、検索のさらなる分散化を加速。製品の発見性が次の競争領域に。

検索は長年にわたり断片化し、従来のGoogleのような検索エンジンから、Redditのような特定トピックでユーザー同士が会話するフォーラムへと移行してきました。 さらに、LLMプラットフォームの登場により、プロンプトを入口とする新しい探索レイヤーが加わり、商品が発見される場所は一層広がっています。

Criteoが10,000人*を対象に最近行った調査によると、米国の消費者の40%がすでにエージェント型のショッピング・アシスタントを商品のリサーチ目的で日常的に利用している一方、96%が検索エンジンやSNS、ブランドやリテーラーのサイトなど他のチャネルも併用していることが分かりました。これは昨年の調査結果で見たマルチチャネル行動と同じであり、商品のリサーチ方法の置き換えが発生していない事実を示しています。むしろ、消費者が複数のチャネルを行き来することで、商品が発見される機会はますます分散化されてきている傾向にあります。

検索の分散化が急速に進む中、お店の店頭やSNS、LLMプラットフォームなど消費者が存在するあらゆるチャネルで商品が見つかる状態を整えることが欠かせません。Criteoでは、エージェント型になっていくエコシステム全体を横断的な視点で捉え、ブランドの商品が適切な接点で発見されやすくなる取り組みに注力しています。

3. AI主導のフロントエンド改革がもたらす、リテールメディアの新時代

LLM プラットフォームがリテールメディア・ネットワークを侵食するという誤解が広がっていますが、実際は異なります。LLM プラットフォームは商品の発見や購入意欲を増進させる新しい入り口としてファネルを広げます。その反面、リテーラーの環境はこれまで通り購入完了や配送、ロイヤリティ形成の基盤として重要な役割を果たすでしょう。

ForresterのEmily Pfeiffer氏が指摘するように、消費者は単調なショッピング体験を求めているわけではありません。今必要とされているのは、パーソナライズされた商品の発見をサポートし、さらにLLMプラットフォーム上で感覚的で文脈を意識したやり取りを反映した、会話型のインターフェースです。これにより、リテーラーのUX基準は引き上げられ、ウェブサイトやアプリ、店舗などあらゆる接点でフロントエンド刷新が急務となっています。

実例として、Sensor Towerの発表によれば、ブラックフライデーとサイバーマンデーの期間中、AmazonのAIアシスタント「Rufus」が関与していないセッションでは購入増加率が20%にとどまった一方、Rufusが支援したセッションでは購入が100%に増加しました。WalmartのAI アシスタント、「Sparky」も着実に利用が広がっています。さらに、Accentureの調査では、米国の消費者は、買い物中に第三者の LLM プラットフォームよりも、リテーラーやブランド自身のチャットアシスタントを使うことを好む傾向があると報告されています

同時に、新しいチャンスも生まれています。 リテーラーが所有するチャットボットや、ChatGPTなどのLLMプラットフォーム上に統合されたリテーラーアプリでは、スポンサー付きの商品レコメンドを通じて、リテーラーが商品のランキングをコントロールできます。

今後の鍵を握るのは、バランスのとれた所有と連携です。LLMプラットフォームと構造化されたコマースデータを共有しながら、自社の仕組みにエージェント体験を取り入れるリテーラーは、分散化が進む市場において、顧客体験への影響力を保ちつつ、商品の見つけやすさを広げることができます。

4. 広告がLLMプラットフォームにおける主要な収益モデルとなり、拡張可能な新しい収益基盤を生み出す

LLMプラットフォームを大規模に収益化する方法は、エコシステム全体の重要なテーマです。最も持続可能で柔軟な収益化モデルは広告であり、GoogleがAI モードの検索エンジンで広告の表示を始めたことで、この効果はすでに確認されています。そして、信頼性の高い商品データを基盤にしたAIプラットフォームは、広告による拡張性の高い収益化モデルを実現できます。商品発見から購入意思決定まで価値を提供しながら、チェックアウトや配送といったオペレーション負荷を抱える必要はありません。

Mobile Dev MemoでEric Seufert氏が述べている通り、アフィリエイトやマーケットプレイスモデルは取引全体の掌握に依存するため、相互運用性や規模拡大に限界が出やすい一方、広告は「注目」や「購買意欲」をマネタイズできます。会話の流れに沿った広告の配信は、邪魔ではなく意思決定を助ける情報として受け入れられる余地があります。ユーザー体験に上手く溶け込めば、エンゲージメントとともにリピート購入や利益率の高い購入の機会を増やせます。

この動きの代表例がChatGPTです。有料サブスクリプションを利用しているのはユーザーの5%ほどであり、ほとんどのユーザーは広告が表示される無料版を利用しています。広告はデジタル収益化において、依然として最も実績があり、拡張性の高い仕組みです。生成AIの時代においても、透明性・データの質・関連性が重宝されます。

5. エージェンティック・コマースの競争優位性を決めるのは、精度の高いコマースデータ

AIを活用した商品の発見に依然としてギャップがあることを思い知らされた最近の体験についてお話ししましょう。ニューヨークで自転車に乗る私は、LLMプラットフォームで「パンクしない頑丈なシティバイクのタイヤ」を探すのに1時間ほど費やしました。しかし、そのショッピング体験は期待外れでした。提示されたのは、リンク切れの商品や生産終了モデル、そして不完全な商品情報ばかりでした。結局私は、信頼できる店員にアドバイスをもらうため、地元の自転車屋へ足を運ぶことになったのです。

この体験は、AIの現状に関する本質的な課題を鮮明に浮き彫りにするものでした。高度な対話能力を持つアシスタントであっても、質の高い構造化データやリアルタイムのコマース情報にアクセスできなければ、商品レコメンドに限界があります。そして、レコメンドの質が期待値を下回ったときに失われるのは、単なる販売機会だけではありません。ブランドやサービスに対する消費者の信頼そのものが揺らいでしまうのです。実際、OpenAIが最近公開した調査によれば、ChatGPTによるショッピングリサーチの精度はわずか64%にとどまっています。これは、現在のAIシステムがエンドツーエンドのショッピングジャーニーを安定して支援するには、データ連携や情報品質の面で改善余地があることが示されています。

現時点では、関連商品を適切に提案するために不可欠なインフラや相互運用性は、まだ発展途上の段階にあります。多くの LLM プラットフォームは依然として、リアルタイムの在庫情報や性格な価格設定、詳細な商品情報、統一された決済・配送システムにアクセスできません。こうした未整備な部分により、質の高い構造化されたコマースデータはAIを活用したショッピング体験において極めて重要な基盤となっており、レコメンデーションの質と信頼性に大きな制約を与えているのです。

これこそが、LLM プラットフォームがコンバージョン獲得に苦戦している大きな理由のひとつです。リアルタイムのコマースデータや、リテーラーが活用する最適化システムにアクセスできなければ、ユーザーの興味を喚起することはできても、その興味を実際の購入に結びつけることはできません。この問題が解消されない限り、LLMプラットフォームは強力なデマンド生成エンジンであり続ける一方で、コマース・プラットフォームとしては課題が残ります。

Criteoでは、7億2千万人のデイリー・アクティブ・ユーザー(DAU)から得られるデータを基に、消費者がどのように購買へ至るのかを詳細に可視化できます。Criteoのユーザーが、当社のユニバーサル商品カタログに収録された45億件のSKUとどのように接点を持ち、年間1兆ドル超のeコマース取引を生み出しているかをご覧いただければ、その規模感を実感していただけるはずです。こうした規模のデータが、常にアップデートされ続けるコマース・インテリジェンスの基盤を形作っています。Criteoは、グローバル規模でリテールフィードのメタデータ整合性を確保し、在庫情報や商品属性の正確性を常にアップデートしています。これにより、実際の購入者によって裏付けられた商品だけを安心して表示できる環境が提供できるのです。こうした高精度のデータ品質こそが、商品の発見における摩擦を最小化し、商品レコメンドの正確性を高め、さらに消費者のコンバージョンや顧客維持に不可欠な長期的な信頼を築くのです。

エージェンティック・コマースの展望

エージェンティック・コマースの次なる進化は、いくつもの重要なダイナミクスが収束することで形作られようとしています。検索行動が多様なチャネルに分散し、商品発見の導線がより一層分散化します。また、AI を活用した新しいリテール体験が急速に普及し始めています。さらに、LLMプラットフォームにおける広告が、拡張性の高い収益モデルとして確立されつつあります。そして何より、精度と信頼性を担保するうえで、質の高いコマースデータの重要性がかつてないほど高まっていきます。これらの潮流が一つにつながることで、エージェンティック・コマースは次のステージへと進んでいきます。

Criteoでは、システム間の相互運用性を実現する Model Context Protocol(MCP) への早期投資によって、すでに重要な知見を蓄積し始めています。具体的には、当社独自の AIエージェント同士がどのように協働し、プラットフォーム全体にどのようにインテリジェンスが広がっていくのかを示すデータが集まりつつあります。 これらの変化は最終的に、アシスティブ・インテリジェンスが商品発見から評価、選択に至るまでの中心的な体験へと進化していく、一元化されたエコシステムへと収束していきます。つまり、消費者がどこで検索し、どのチャネルを使おうとも、より賢く、より文脈に沿ったレコメンデーションが受け取れるようになる世界が近づいているのです。

Criteo のロードマップでは、こうした変化を正面から受け止め、エコシステム全体で 「商品の発見性」を強化する、拡張性の高い仕組みづくりを最優先しています。具体的には、リテーラーが所有するAIアシスタントや、AIを組み込んだリテールアプリでのスポンサー広告の配信から、AI ショッピング・インフラ、そして高品質なコマースデータ・フィードの提供などがあげられます。

Criteo の実績あるクロスチャネル・モデルは、エージェンティック AI による新たな需要創出の機会を最大化し、顧客が収益性をさらに高められるよう支援する独自の優位性を提供します。 エージェンティック・コマースの未来は、商品の発見において正確で、信頼でき、そして相互運用可能な体験を提供できる エージェンティック AI によって導かれていくでしょう。そして、その基盤こそが、Criteoが今構築し続けているものです。私たちのテクノロジーとデータは、これからの10年のコマースを支える 「インテリジェンス基盤」を形作り、リテーラー、ブランド、そして消費者にとってより豊かで効果的なエコシステムを実現していきます。

*出典:Criteo Shopper Survey(米国、英国、ドイツ、日本、韓国、オーストラリア、シンガポール、インドの18歳以上を対象にした Criteo のアンケート調査)、2025年9月、回答者:10,170人

Michael Komasinski

Michael Komasinskiは、Criteoの最高経営責任者(CEO)です。 20年の経験から得たアドテックに関する専門知識と企業の成長加速やAI主体のイノベーション、事業規模の拡大における実績を備えており、 ...

最高経営責任者(CEO)