続く物価上昇。消費者は“慎重モード”へ
物価高が長期化する中、消費者の購買行動にも変化が見え始めています。
帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食料品値上げは累計2万609品目となり、2年ぶりに2万品目を超えました。2026年は前年より落ち着いたペースで推移しているものの、1〜9月累計ですでに6290品目の値上げが予定されています。
背景には、原材料価格の高騰に加え、物流費、人件費、包装資材価格の上昇があります。帝国データバンクでは、中東情勢の悪化による包装資材コスト上昇などを背景に、「今夏以降、値上げラッシュ再燃の可能性がある」と分析しています。 さらに、電気・ガス料金の上昇なども重なり、生活コスト全体は高止まりが続いています。こうした状況を背景に、消費者の購買行動はさらなる節約モードへとシフトしつつあります。
博報堂生活総合研究所の「消費意欲指数」でも、2026年4月の指数は44.8点と、過去10年間の同月最低値となりました。物価高の影響が再び強まり、「モノを買いたい」「サービスを利用したい」という意欲そのものが低下していることがうかがえます。ただし、現在の消費行動を単純な“節約志向”だけで捉えるのは難しくなっています。
消費者は確かに慎重になっています。しかし一方で、「ただ安ければよい」という価値観へ単純に向かっているわけではないからです。むしろ現在は、「本当に必要か」「価格に見合う価値があるか」を、これまで以上にシビアに見極める傾向が強まっています。
その変化は、一般消費者だけでなく、富裕層にも広がっています。
富裕層にも広がる「メリハリ消費」
デロイト トーマツ グループが、全国20〜79歳、世帯年収2,000万円以上の男女1,835人を対象に実施した「2025年度 国内富裕層意識・購買行動調査」の結果を見てみましょう。調査に寄せられた回答の中で、特徴的だったのが「節約と贅沢のメリハリをつけるようになった」という回答です。富裕層・一般消費者ともに3割を超え、いずれの層でも最も高い回答となりましたが、富裕層のほうがよりその傾向が強く見られました。

図:出典:デロイト トーマツ
一般消費者では「コストパフォーマンスを重視するようになった」「より低価格なものを購入するようになった」という回答が目立つ一方、富裕層では「健康を意識した生活を送るようになった」「地元の商品やサービスに興味を向けるようになった」といった回答も高い割合を示しています。
つまり富裕層は、単純に価格やコストパフォーマンスを最優先しているわけではありません。必要な場面では節約を意識しながらも、品質や社会的価値、体験価値を感じられる商品やサービスには積極的に支出する――。
そうした“価値重視型”の消費行動が浮かび上がっています。
背景にあるのは「納得感」重視への変化
なぜ今、このような変化が起きているのでしょうか。背景の一つにあるのは、情報量の爆発的な増加です。現在の消費者は、購入前に SNS 、動画、レビューサイト、比較記事など、膨大な情報に接しています。その結果、「失敗したくない」という意識が以前よりも強くなっています。さらに、選択肢が増えたことで、“選択疲れ”も起きています。こうした環境下で重視されているのは、単純な価格の安さではありません。
消費者は現在、価格以上に 「自分に合っているか」、「価格に見合う価値があるか」「購入後の満足につながるか」、といった観点から、より慎重に購買判断を行うようになっています。
特に富裕層では、「生活の質」や「効率性」、「社会的意義」を重視する傾向も見られています。価格だけではなく、“その支出が自分にどんな価値をもたらすか”が重視されるようになっているのです。つまり富裕層は今回の物価高によって、消費の優先順をより明確に意識し始めたといえるでしょう。
求められるのは「一律訴求」ではなく、“文脈”に合った提案
こうした消費行動の変化は、マーケティングのあり方にも大きな影響を与えています。現在の消費者は、単純な価格訴求だけでは動きにくくなっています。特に物価高が続く中では、「本当に必要か」「自分に合っているか」を慎重に見極めながら購買判断を行う傾向が強まっています。
一方で、消費意欲そのものが完全に失われているわけではありません。
デロイト トーマツの調査では、富裕層は一般消費者に比べ、「今後消費を増やしたいものはない」と回答した割合が低く、「旅行」「外食」など、体験価値に関わる消費への意欲が高いことが示されました。特に海外旅行への意欲は、一般消費者との差が顕著でした。

図:出典:デロイト トーマツ
この傾向は、他の調査結果とも一致しています。たとえばJTB総合研究所の「旅に求めることについての調査」では、旅行に求めるものとして、「リフレッシュ・気分転換」(56.4%)、「癒し・リラックス」(49.8%)、「楽しみ・喜び」(47.2%)などが上位となりました。さらに、約8割が「旅の中で非日常を感じた」と回答しており、“モノ”よりも“体験”に価値を感じる傾向が強まっていることがうかがえます。
つまり現在は、「消費しない時代」というより、“支出先を各自の価値観で選別する時代”と捉えるほうが実態に近いでしょう。こうした環境下で重要になるのが、「どのような文脈で消費者と接点を持つか」です。
Criteo が近年注力しているコマースメディアの考え方も、まさにこの変化を背景にしています。
消費者は現在、 SNS 、動画、レビューサイト、EC 、検索など、複数のチャネルを横断しながら購買を検討しています。そのため企業には、単に広告を“配信する”のではなく、購買行動や関心に合わせて、適切なタイミングで情報を届けることが求められています。
特に近年は、リテールメディア市場の拡大が続いています。購買データを活用しながら、検討段階に応じた情報提供を行うマーケティングは、単なる認知獲得ではなく、“購買体験そのもの”を設計するフェーズへ入りつつあります。また、デロイトの調査では、富裕層ほど「購入履歴などをもとにした商品提案」に対する利用意向が高い一方、「インターネット広告」や「SNS広告」には消極的な傾向も見られました。
一律的な広告には反応しにくい一方で、自分に合った提案や、関心・行動文脈に沿ったコミュニケーションには価値を感じる――。この傾向は、一般消費者にも広がりつつあります。
“なんとなく買う”が減った時代。これからのマーケティングには、価格訴求だけではなく、「自分に合っている」と感じてもらえる提案力と、オンライン・オフラインを横断した一貫性のある顧客体験が求められているのです。



