SPARROW:広告の新たな未来の到来を告げる鳥

これまでの歴史を見ても、広告とバードウォッチングの世界には特に深い関係があるわけではありません。しかし最近、広告業界で議論されている提案のタイトル(接頭語を組み合わせたタイトル)がいずれも鳥の名前であることから、パーソナライズド広告の未来と鳥が結びつけられるようになりました。これらの提案の目的は広告品質の向上であり、サードパーティCookie廃止後も、ユーザー、広告主、パブリッシャー、アドテク企業間での暗黙の価値交換を維持しながら、エコシステムを存続できるようにすることにあります。

プライバシー保護をより一層強化すべく、Google Chromeはユーザーレベルの広告の代わりに興味・関心グループに向けた広告を使用する提案を発表しました。「TURTLEDOVE(キジバトの意):Two Uncorrelated Requests, Then Locally-Executed Decision On Victory」は、まさにその取り組みの一環です。このアプローチは、匿名の個人にカスタマイズしたメッセージでエンゲージメントを図るのではなく、共通の興味・関心を持つグループに合わせて広告メッセージの配信を行うことを提案するものです。

Chromeはプライバシーに配慮したポジティブな広告体験をユーザーに提供すると同時に、ユーザーの閲覧行動がどのように広告表示に影響するかについての透明性を確保することも全体の目的として掲げています。技術面においては、TURTLEDOVEは広告キャンペーンの展開からリアルタイム入札、そして広告の表示までをブラウザで実行することを提案しています。また、ブラウザレベルでパフォーマンスレポートの出力を行い、24時間後にはすべてのブラウザでの集計を可能にするとしています。

確かにChromeの提案の背景にある意図は素晴らしいものですが、その成果はオンライン広告に求められるニーズを十分に満たすものではないと我々は考えます。TURTLEDOVEの提案はユーザーのプライバシー保護を強化するための初期段階のフレームワークですが、広告主とパブリッシャー、そして彼らのパートナー企業がコントロールや透明性を確保する手段については言及していません。

CriteoはTURTLEDOVEの補われていない点をカバーすべく、今年5月に開催されたWorld Wide Web Consortium(W3C)において、「SPARROW(スズメの意)」と題する提案を発表しました。SPARROWの構想は、TURTLEDOVEの基本方針に基づいてユーザーが期待するプライバシー重視のオンライン体験を可能にすると同時に、広告主やパブリッシャーが求めるパフォーマンス要件を満たすためのアプローチについても改良点を盛り込んでいます。

SPARROWとは?

SPARROW:Secure Private Advertising Remotely Run On Webserver(ウェブサーバー上でリモート実行されるセキュアなプライベート広告)」は、TURTLEDOVEで定義された基本方針に沿って考案されたものですが、その目的はコントロールと透明性を確保しながら、ユーザーのプライバシーを担保し、Chromeの提案を強化することにあります。SPARROWによって強化されるポイントを以下でご紹介します。

  1. オーディエンスの発見および拡張:SPARROWでは、対象のユーザーが属する興味・関心グループに基づいて彼らにエンゲージし、サイトトラフィックと販売を加速します。また、広告主がそれらの興味・関心グループをベースに上位ファネル向けのキャンペーンや、類似キャンペーンを作成できるようにします。通常、こうしたキャンペーンは新商品やサービスに対するユーザーの注目を集めるために利用され、SPARROWではコホートベースのプライバシー保護アプローチをもとに、これらの戦略を可能にする設計を提案しています。
  2. データ保護およびセキュリティ:Criteoが提案するSPARROWでは、ブラウザではなく独立したサードパーティ、つまり「ゲートキーパー」で入札をリアルタイムに実行することを提案しています。ゲートキーパーはユーザーの興味・関心や閲覧行動などの個人情報に、広告主やパブリッシャー、アドテクパートナーがアクセスできないようにすることで、ユーザーグループのデータを保護します。

ゲートキーパーは、メディア購入プロセスのファシリテーター(進行役)として、ユーザーグループのデータを保護、共有、匿名化した上で、それらのデータを他の広告プレイヤーに渡し、キャンペーンの実行に利用されます。クラウドサービスプロバイダーなどのサプライサイドプラットフォーム(SSP)であれば、既存の技術インフラやサービスホスト機能、ウェブパブリッシャーとの統合性を活用することで、ゲートキーパーとしての役割を十分に果たすことができるはずです。

広告エコシステム内のすべてのプレイヤーにメリットをもたらすSPARROWのアプローチ

TURTLEDOVEの目的はユーザーのプライバシー保護ですが、SPARROWではさらに多くの基準によってユーザーのプライバシー保護のほか、広告主、パブリッシャー、アドテクパートナーの成功を後押しするための情報・ツールを提供します。これらは以下のアプローチによって実現します。

  • ユーザーのプライバシー保護を強化すると同時に、閲覧体験の質も確保。
  • 広告主はブランドセーフティを守りながら、「パフォーマンスドリブン」の広告配信を継続。ただし、現在よりもパフォーマンスが大幅に低下する可能性がある。
  • パブリッシャーは事業を収益化する能力と、広告の安全性管理を両立。
  • アドテクベンダーは、「パフォーマンスドリブン」の広告配信とレポーティングを提供する能力を維持。

広告業界における価値交換を再び活性化させるには、広告エコシステムのすべてのプレイヤーのニーズを満たさなければなりませんが、SPARROWはTURTLEDOVEの機能を高めることによって、すべての人に高い価値をもたらします。

ゲートキーパーがユーザーのデータを販売することを防止する仕組み

TURTLEDOVEとSPARROWの構想は、いずれも何らかの形でサーバーサイドのストレージが関わることになります。ゲートキーパーがデータの販売に関与しないようにするには、いくつか方法があります。1つは、特定のガバナンスを適用した専用の構造を設けることです。さらに、ゲートキーパーをデータ保護当局(DPA)の定期監査の対象に含める方法もあります。あるいは、データ管理の手段(データ保持など)やパブリックAPIを使用して、データの不正利用を防止するという方法もあります。

いずれの選択肢も実践可能なものですが、Criteoはこれらの課題を解決するために、業界内のパートナーと連携しながら堅牢かつ持続可能なソリューションを構築したいと考えています。

SPARROWのレポーティング機能

業界全体から寄せられた建設的なフィードバックのおかげで、Criteoは最近SPARROWのレポーティング機能の最適化に成功しました。これにより、ユーザーのプライバシー保護をより一層強化すると同時に、広告主が求めるパフォーマンスも確保できます。具体的には、ログレベルのレポーティング機能を、さまざまな広告のユースケースにフォーカスした以下の3つのレベルのレポーティング機能に置き換え、ゲートキーパーが提供するというアプローチです。

  • キャンペーンの予算と支出を管理する低レイテンシーの集計レポート。
  • 不正検出、キャンペーンの最適化、A/Bテストなどに対し、プライバシー保護のメカニズムを備えたディスプレイ広告レベルのパーソナライズドレポート。
  • パブリッシャーのブランドセーフティ監査への対応を目的とする、配信済みの全広告ユニットをリスト化したレポート。

TURTLEDOVEでは、ブラウザは広告オークションでライブデータフィードを返さないため、パブリッシャーやCriteoのような広告プラットフォームは数時間ごと、あるいは1日に1回インプレッションの集計レポートをブラウザから受け取るのみです。こうした設計では広告主がチャンスを逃す可能性があり、特にアクティビティが活発なピーク時などに、広告支出や広告表示が必要以上に発生してしまうことも考えられます。また、広告詐欺をタイムリーに阻止できないという問題も残ります。

業界が進むべき次のステップ

オンライン広告の今後については未知数の部分が多い一方、こうした「原点回帰」は業界にとって、ユーザーに価値ある優れたオンライン体験を提供する方法を見直すための貴重なチャンスであるとCriteoは考えています。

21世紀の今のタイミングでオンライン広告のアプローチを再設計するこの取り組みは、興味・関心グループの域を超えて、プライバシーを重視したユーザーレベルのターゲティング、さらにはコンテクスチュアルターゲティングの域まで拡大していくのではないでしょうか。Criteoは、ユーザーの好みに応じてオンライン体験をカスタマイズできる能力を誰もが持つべきだと考えており、広告業界はこうしたオプションをすべてのユーザーに提供して、彼らが自身の興味・関心やニーズに最も適したものを選べるようにしなければなりません。

群で移動する鳥たちが季節の変わり目を告げるのと同じく、オンライン広告にとって今後の2年間が新たな時代の節目となるのは間違いありません。オンラインIDをめぐる議論は、今後も進化し続けるでしょう。そして、より質の高い広告システムの構築に注力しながら、私たち自身もまた進化を遂げていくことになります。理想とすべきシステムは、ブランドが独自の商品をプロモーションでき、パブリッシング業界の独立と安定を資金面で支え、さらにオンラインメディアならではの高度なパーソナライゼーションによってユーザーがメリットを享受できるシステムです。

SPARROWの特長は「反復性」です。Criteoは引き続き外部とのコラボレーションを推進し、業界内のあらゆるプレイヤーとパートナーからのSPARROWに対するフィードバックを歓迎しています。この取り組みに参加を希望される場合は、お気軽にCriteoチームまでお問い合わせください。