2017年、Whole Foodsを買収したAmazonは、書店や食料雑貨店など実店舗の展開をスタートしました。SezaneやAllbirdsをはじめとする他のEコマース企業も、こぞって実店舗を通じた販路拡大を積極的に推し進めています。一方、アプリや仮想現実(VR)、拡張現実(AR)の普及に伴い、小売業界におけるリアルとデジタルの境界線はますます曖昧になりつつあります。
そう、すでにオムニショッピングが主流の時代がやってきているのです。Criteoが行った「ショッパーストーリー」の調査においても、買い物客の4人に3人がオンラインからオフライン、あるいはオフラインからオンラインに移動しながらショッピングを楽しんでいることが明らかになっています。また、Criteoの「グローバルコマース調査レポート」では、複数の販売チャネルを持つ北米の小売業者の客のうち、オムニショッパーは全体の7%程度であるにもかかわらず、その売上は全体の27%にも上ることが明らかになりました。
一方で、2021年までの売上の82.5%は、実店舗で発生する可能性が高いという予測にも留意しておく必要があります。これはマーケターにとって何を意味するのでしょうか?オフラインのマーケティング戦略がこれまで以上に重要であると同時に、今日のオムニショッパーへの対応が急務であることを示唆していると考えられます。
本ブログでは、成功を収めている小売業者が実店舗で行っている、クリエイティブなオフラインマーケティング戦略のいくつかをご紹介します。
次世代型の販売スタッフによる顧客獲得
AllbirdsやEverlaneといったオンライン発のブランドは今、実店舗の増設に向けて多額の投資をしています。またSephoraをはじめとする老舗のグローバル小売業者は、販売スタッフを対象に、商品知識やデジタルリテラシーを強化するためのトレーニングを積極的に行っています。
2015年にTim Brown氏とJoey Zwillinger氏の2人によって創業されたスニーカーのスタットアップ企業であるAllbirdsでは、レストランのようなホスピタリティあふれるサービス提供を目指す実店舗を展開しており、商品へのアクセスや販売スタッフとのスムーズなやり取りを実現する「没入型」の体験を提供しています。
創業者であるZwillinger氏は、次のように話しています。「在庫を取り出すスタッフは、いわばバーテンダーです。ウェイトレス、バースタッフと呼んでも構いません。呼び方は何であれ、これまで以上に優れた靴のショッピング体験を提供することが、私たちの目的です」。
化粧品をはじめ、美容関連の商品を扱うSephoraの場合、従業員は必ずしも美容の専門家である必要はありません。その代わりに、彼らは自社のアプリからウェブサイトに至るまで、さまざまなデジタルツールの利用方法を顧客に案内するためのリテラシーを持つことを求められています。さらにSephoraでは、顧客の「共感」を高めるためのスタッフ教育を何より重視しており、従業員が顧客に対して機械的な体験ではなく、「人ならではの体験」を主体的に生み出せるよう配慮しています。
店舗のデザインやインタラクティブな体験もさることながら、小売販売の現場で優れた顧客体験を生み出すためのカギとなるのは、なんといっても販売スタッフの質です。十分なトレーニングを受けたスタッフを配置すれば、一度でも店舗を訪れた買い物客はロイヤルティの高いリピーターになってくれるはずです。
リエンゲージメント:多くの人と共有できるユニークな体験の創出
前述のAllbirdsのレストランのような店舗は、フランスのファッションブランド「Sezane」の実店舗を思い起こさせます。
同社がパリとニューヨークで展開する店舗「L’appartements」は、インスタ映えするフレンチカフェ風の優雅なデザインが特徴で、買い物客には無料でコーヒーや焼き菓子がふるまわれます。たとえ商品を購入しなくても、買い物客はそこで自由に時間を過ごし、コーヒーを楽しみ、SNSで体験をシェアできるため、消費者にとって「L’appartements」はただ訪れるだけでも優れた体験が得られる空間となっています。
またスポーツ飲料メーカーのGatoradeでは、今年の「South by Southwest」のイベントでGatorade Combineという体験スペースを設置しました。「Gatoradeと米Sports Illustrated誌のコラボレーションによる未来のアスリート評価、および生活に寄与するスポーツの革新」をテーマに、イベント参加者に独自の体験を提供しました。
イベントの来場者は、3つ用意された体験ステーションで自身のスピード、動作、パワーに関する測定を行い、それらの数値をプロのアスリートのものと比較することができます。そして、その測定結果のレポートはSNSでのシェアに最適な形で提供されます。満足度の高いシェアラブル(共有可能)な体験はROIを向上させるだけでなく、その体験が各顧客のSNSでシェア・拡散されれば、結果としてブランドアウェアネスが向上し、新規顧客の発掘にも繋がっていきます。
ここで注意しなければならないことは、提供する体験が自社のブランドポリシーに即しているだけでなく、顧客のニーズに沿ったものでなければならないということです。Advertising Weekの記事では、ブランドがSNSでシェアされることを期待していたとしても、消費者にとって何の見返りもない場合、彼らはすぐにそれに気が付くと分析しています。シェアラブルな体験がいくらユニークでも、それがブランド側だけの利益を追求したものであれば、ブランドイメージが高まるどころか、むしろ逆効果となってしまいます。
コンバージョン:ネットとリアルの融合
たとえばSephoraでは、買い物客がスマートフォンのカメラとデジタルフィルターを使って、いろいろなブランドの口紅やカラーを試すことができるアプリを提供しています。
また、拡張現実を利用したアプリを提供するIKEAでは、買い物客はIKEAの家具を自分の部屋に配置したイメージを確認することができます。
こうした技術は買い物客の意思決定に役立つだけでなく、商品を評価して購入に至るコンバージョンのタッチポイントにもなり得ます。ショッピングジャーニーではオンラインとオフラインを行き来するケースが多くありますが、実店舗ではモバイルをはじめAV/VRなどのアプリケーションを活用することによって、両者のギャップを上手く解消することができるはずです。
自社のオフラインマーケティング戦略を策定する
ここまで見てきたように、大きな成果を生み出しているオフラインのマーケティング戦略では、トレーニングを通じた店舗スタッフの共感力やデジタルリテラシーの強化、また人目を引く没入型の店舗体験や、商品をより身近に感じてもらうための最新VR技術の活用などがあります。これらの戦略は単独でも複数を組み合わせた形でも実施できますが、いずれの場合も、その目的は「すべてのチャネルを横断してショッピングジャーニーを1つにつなげること」であることを忘れてはなりません。
オンラインとオフラインのチャネルを競合させるのではなく、すべてのチャネルを1つの顧客体験として統合できたとき、オフラインのマーケティング戦略は優れた成果を収めることができるはずです。