ビューティブランドで口紅が色とりどりにディスプレイされているのを見れば、消費者に関する1つの真実が見えてきます。それは、メイクアップの好みは十人十色であるということです。深紅色のファイア・エンジン・レッドが好きな人もいれば、ピンクがかったストロベリー・バインがお気に入りという人もいるでしょう。また、今日はラメたっぷりのコパ・カバーナの気分という日もあれば、控えめなフレンチ・キスにしておこうという日もあるはずです。どの口紅を選ぶかは、その日の気分や状況、ファッションによって変わるので、企業はさまざまなカラーバリエーションを用意しているのです。
消費者に好みの口紅を用意するだけでなく、彼らが今求めているもの、この瞬間に必要としているものを確実に提供するために必要となるのが、マーケティングのパーソナライゼーションです。
ロレアルの高度なデータ戦略
グローバルな市場で大きな成功を収めているビューティブランド・ロレアルは、常に進化を続ける高度なマーケティング戦略でも知られています。同社の傘下には現在、ランコムやアーバンディケイ、エッシー、NYX、レッドケン、キールズ、ビオテルム、ガルニエなど、そうそうたる人気ブランドが名を連ねています。
ビューティ業界のリーダーとしてグローバルでビジネスを展開するロレアル(2016年の売上高は250億ユーロ)では、いつでも、どこでも、買物客とつながることのできるパーソナライズされたアプローチを改善し続けることによって、イノベーションを実現してきました。
こうした同社のマーケティング戦略の「原動力」となっているのがデータです。このレポートでは、ビューティブランドがデータを有効活用して自社のキャンペーンをカスタマイズするのに役立つ、3つの重要なヒントをご紹介します。
1.データを活用してオンラインとオフラインのマーケティングを統合
パーソナライゼーションとは、特定の買物客がどのチャネルを利用していても、常に一貫性のある対応を維持するための施策です。ロレアルの西ヨーロッパ地域で最高マーケティング責任者を務めるステファン・ベルベ氏は先ごろ、同社のイギリス市場における売上拡大は、オフラインとオンラインのマーケティング戦略をいかに統合できるかにかかっているとの見解を明らかにしました。
ベルベ氏はマーケティング・ウィークの取材に対して、次のようにコメントしています。「オンラインの消費者とオフラインの消費者は、区別して捉えるべきではありません。これからのマーケティング戦略は、デジタル領域の優先課題に注力するという従来のアプローチから脱却しなければなりません。もはや、マーケティングはデジタル戦略という概念そのものを捨て去らなければならない段階にきているのです。当社はこれをロレアルにおける企業文化の変革の一環として、強く推し進めているところです」
EU離脱をはじめとする政治経済の不透明感を尻目に、ベルベ氏はアメリカ、中国、フランスに次ぐ第4の市場であるイギリスについて、今後も成長が期待できる市場であると断言しています。現在、同社の売上の約20%はeコマースチャネルによるものであり、ベルベ氏はこの割合をさらに拡大したいとの考えを示しました。この目標を達成するためには、eコマースを独立した別のチャネルと見なす従来の方針から脱却しなければならないというのが同氏の考えです。
Criteoが最近発表した「ショッパーストーリー」では、多く買物客はオンラインとオフラインの購入を適宜使い分けており(例:クリック&コレクト、ウェブルーミング、ショールーミング)、どちらの購入方法にも価値を見いだしていることがわかっています。
アメリカでは、消費者の69%が可能な限りオンラインでショッピングをすること好み、74%が時間のある時に実店舗でショッピングすることを好むと回答しました。
出典:Criteo Shopper Story, US, 2017
2.データをより効果的に活用して、広告をパーソナライズ
買物客は商品をウェブで検索したり動画を視聴したり、さまざまな形でオンラインのサービスを利用しますが、その際に一連のデジタルデータをオンライン上に残していきます。これらのパターンや行動から価値あるインサイトを導き出し、ニーズ予測やマーケティング戦略の策定に役立てることが可能です。
しかし、こうしたデータを適切に利用できていない、あるいはどのようなデータが最も関連性が高いかを把握できていないブランドも少なくありません。先週、黒いスニーカーを購入したばかりの消費者に、黒いスニーカーを提案するリターゲティング広告が表示され続けてしまうのはそのためです。適切な種類(そして大量)のデータを効果的に活用することで、こうした課題の解消のみならず売上や収益の改善といった素晴らしいメリットを生み出すことができるのです。
ロレアルのベルベ氏は、「データをブランドと共有することは決して怖いことではない」ということを、消費者に納得させる施策を講じるべきだと指摘します。これにより、ブランドはより高度にパーソナライズされた広告を配信しつつ、同時に収益を拡大できるようになります。
マーケティング・ウィークでのベルベ氏のコメントをもうひとつ引用しましょう。「今の時代、データが自分にどのようなメリットをもたらすかは、消費者にとってわかりづらい面があります。そのため、彼らの多くはブランドとデータを共有することに対して否定的です。ロレアルでは、顧客をパーソナライゼーションすること、そして極めて高い関連性を確立することを最優先課題に掲げています。関連性の高い有意義なコンテンツを提供するために、なぜデータが必要なのかを、業界は消費者にまだ十分説明できていないのが現状です」
Criteoは先ごろ発表したレポート「コマース・データの機会:コラボレーションが小売分野にどのように左右するか(The Commerce Data Opportunity: How Collaboration Levels the Retail Playing Field)」では、Forbes Insightsの協力を得て、500人を超える企業幹部を対象に、データについて彼らがどう考えているのかを調査しました。その結果、小売業者やメーカーといった業種に関係なく、多くの幹部がデータを売上・収益を拡大するための重要な要素だと考えていることがわかりました。
ブランドや小売業者の71%は、データプールの構築に協力する考えがあると回答。また、それは未来の市場環境で勝利を収めるためのアプローチの一環であると回答しました。
出典:「コマース・データの機会」
ブランドや小売業者の多くはデータのポテンシャルを正しく認識することで、データを競争力の強化、顧客ニーズへの対応、ビジネスの価値創造に役立てられると考えています。上記の共同調査では、回答者の約5分の4が顧客データをビジネス戦略の一部と見なしていると回答しています。
New Lookのケーススタディ
イギリスのファッション小売業者であるNew Lookは、Criteoが所有する買物客の膨大なデータプールを活用して注文件数を4倍に拡大するとともに、注文1件当たりのコスト(CPO)を74%削減することに成功しました。消費者のショッピング行動や興味・関心に関するデータをもとにパーソナライズされたレコメンドを提供することによって、同社は今や新規顧客の割合を62%まで引き上げています。ケーススタディの全文はこちらからお読みいただけます。
注文件数を4倍に拡大するとともに、CPOを74%削減したNew Look
立体的なメイクアップのテクニックを顧客に伝えるためにメイベリンが行ったデータ活用
メイベリンの顧客の多くは、ショッピングジャーニーをオンラインのチャネルからスタートします。そのため同社では、買物客がオンラインで何を検索・閲覧しているかについての理解の深化に力を入れています。同社は立体的なメイクが簡単にできるMaybelline Master Contourシリーズを市場へ投入するにあたり、グーグルとパートナーシップを締結。どの買物客の層が立体メイクの知識があるかについて詳しく調査しました。これにより、同社は収集したデータから各買物客のニーズを特定・予測、それぞれのニーズに対する適切な対応が可能になりました。
データから得られた知見をもとに、メイベリンは自社広告のターゲットを3つのセグメントに分類し、「立体的なメイクは難しい、時間がかかり過ぎる」と考えている女性にフォーカスしました。
さらに同社は、立体メイクをシンプルな3つのステップで完成させる方法を紹介したハウツー動画をシリーズ化してYouTubeに投稿。これらの動画は、人口動態データや消費者の購入意図に応じて、視聴者が「①疑問点に対する回答」および「②肌のタイプや色に合わせた最適なアドバイス」が得られるようにカスタマイズされています。
こうしたデータ基盤のアプローチを採用することにより、メイベリンは900万人以上の消費者と有意義な関係を構築し、彼らが求めている具体的な立体メイクのヒントを提供することに成功しました。この施策によって購入のハードルは低くなり、同社と消費者双方にとってWin-Winのメリットがもたらされました。
メイクアップの好みやスキルは個人によってさまざまですが、メイベリンはパーソナライズされた動画の提供を通じて、買物客それぞれのニーズに応える方法を見いだしたのです。
3.データを実用化して、新しいテクノロジーを最大限に活用
多くのブランドがひしめき合う市場では、各社が実にさまざまなアプローチを使って買物客にリーチしようと試みています。ロレアルのベルベ氏は、だからこそすべてのプラットフォームを横断して関連性の高い体験を確実に提供したいと考えています。同社では、この課題の解決のために音声検索などの新たなテクノロジーを効果的に活用する取り組みを進めています。
同氏はマーケティング・ウィークで、「調査では、消費者の22%がすでに音声検索を利用していることがわかっています。この割合は2018年末までに40%に拡大する見通しです。つまり私たちロレアルは、音声検索においても常に検索結果の上位を維持できるよう、自社コンテンツを最適化する必要であるということです。この答えはまだ見つかっていませんが、音声検索においても当社は極めて高い関連性を確立しなければならないことは不変の課題です」と話しています。
Amazon Alexaを持っていなくても、多くの消費者がスマートフォンでSiriをはじめとする音声アシスタントを利用しています。また、モバイルや機械学習テクノロジーの進化によって、指先の操作だけで自分だけのパーソナルスタイリストやヘアメイク/メイクアップアーティストなどを利用することも可能です。
メイベリンのモバイルアプリ「Makeup Genius」
より高度にパーソナライズされたデジタル体験を提供するために、メイベリンは買物客がバーチャル・メイクアップを楽しめるモバイルアプリ「Makeup Genius(メイクアップ・ジーニアス)」を開発。このアプリは多くの消費者からの支持を集め、そのダウンロード数はすでに1,400万回を超えています。
このアプリは、ユーザの顔をスキャンして60種類以上の特性を分析し、メイクアップ商品やシェーディング方法を変えることによって、どのようなメイクができるかをシミュレーションします。
また、ユーザはプロのメイクアップアーティストによるメイクアップライブラリを検索できるほか、商品やシェーディングをバーチャルに楽しんだりすることもできます。また、アプリでメイクを完了した後は、顔を動かして別のアングルからメイクの見た目を確認することもできます。さらに、気に入ったメイクを保存してSNSでシェアしたり、商品をワンタッチで購入したりすることも可能です。
ここで注目すべき点は、このアプリは単にオンラインショッピング体験を提供するために作られたものではないということです。つまり、このアプリはブランドの販売チャネルの1つであるだけでなく、エンゲージメント関連のデータを収集するチャネルとしても機能するユニークなアセットなのです。美容ブランドはこれを活用することによって、顧客のニーズを理解し、顧客一人ひとりにパーソナライズされた体験を提供できるようになります。
データ + パーソナライゼーション = 顧客体験
「デジタルノイズ」が日増しに増大していく現代、ブランドは買物客一人ひとりに合わせて体験をパーソナライズし、メッセージの差別化を図る必要があります。中でもビューティ関連業界では、個々のニーズや興味・関心に訴求するような体験を提供することが特に重視されます。メイベリンのハウツー動画が示すように「髪のボリュームをきれいに出す方法」に悩む人もいれば、「ウェーブが強すぎる髪をまとめる方法」を探している人もいるからです。
とはいえ、それぞれの消費者に対してマーケターが手作業で各広告をパーソナライズすることは不可能であり、現実的ではありません。しかし、Makeup Geniusアプリのように機械学習を活用すれば、人の力では到底処理できないような数の買物客1人ひとりに対して、的確かつスピーディに広告をパーソナライズすることができます。膨大な買物客のデータを有効に活用し、ダイナミック広告やカスタマイズされたコンテンツを活用してショッピング体験をパーソナライズできるブランドこそが、将来の市場を制することになるでしょう。
機械学習についてさらに詳しく知りたい方は、CriteoのEブックをぜひお読みください。