所有から利用へ~自動車サブスクリプション市場は810億米ドルへ

新車販売数、記録的な減少

新型コロナウイルスの感染拡大にいまだ収束の兆しが見えない中、全世界で幅広い業界が大きな打撃を受けています。自動車業界もその1つ。JETROのリポートによると、米国の2020年の新車販売台数は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で前年比14.5%減の1,458万541台と記録的な減少となりました。また、2020年の生産台数も前年比17.6%減の880万5,575台にまで落ち込んでいます。

日本でも2020年の新車販売台数は大きく減少。日本自動車販売協会連合会の統計によると登録車(小型乗用車と普通乗用車)、軽乗用車、輸入車のすべてが前年割れとなる厳しい結果に。車種別に見ると、登録車が前年比-12.2%の247万8832台、軽乗用車が同-10.0%の133万1149台、輸入車が同-14.7%の25万4404台でした。

2020年の新車販売台数減少の直接の原因は新型コロナウイルスの感染拡大と分析されており、2021年は前年の反動もあって増加に転じるものとみられています。

しかし、コロナの影響がなくても、将来的に日本では新車の販売台数は減少していくものという見方が有力です。背景にあるのは少子高齢化と若者の車離れです。特に、いわゆるZ世代の若者たちの車離れは顕著で、あの自動車大国アメリカにおいてさえ、免許を取得する若者の数の激減が報じられています。ウォールストリートジャーナルによると、16歳で自動車免許を持つ人の割合は全体の50%を超えていたのに対し、2017年の調査では約4分の1に減少しています。

日本でもソニー生命が2020年の新成人を対象に行ったアンケートで自動車免許を持っているかどうかを聞いたところ、持っていると答えた人は、56.4%、マイカーを持っている人は14.8%にとどまりました。ちなみに、同調査でマイカーを持たない理由についてきいたところ、「購入費用を負担に感じる」が最も多く50.9%、次いで、「燃料代や修理費など、維持費がかかる」が33.8%、「車以外の移動手段が充実しており、車に乗る必要性がない」が31.1%に。経済的な理由で車が買えないというわけではなく、そもそも車の必要性を感じていない若者が一定数いることがわかりました。確かに誰かにビデオチャットやSNSでいつでも好きなときに友達や恋人に会うことができ、遠くまで足を運ばなくてもオンラインで楽しめる娯楽がたくさんあって、重い買い物はネットショッピングでOK、外食の代わりのデリバリーも充実、加えてレンタカーやカーシェアがあれば、無理してまで車を購入する必要はないのかもしれません。

増える自動車サブスクリプションサービス

こういったニーズに応えて、今、続々と誕生しているのが車のサブスクリプションサービスです。月々一定額を支払うことで自動車をマイカーのように利用できるサービスで、所有するよりも経済的負担が小さいこと、またいろいろな車種に乗れることから人気を博しており、海外市場調査を手掛ける株式会社グローバルインフォメーションのレポートでは、「自動車のサブスクリプションサービスの市場規模は2030年末までに810億米ドル規模に成長する」と予想しています。日本でもTOYOTA自動車の手掛けるKINTOや、中古車大手ガリバーのNOREL、コスモ石油のコスモMyカーリースなど、各社がそれぞれ特徴のあるサブスクリプションサービスを打ち出し、主に若年層やこれまで自動車を所有していなかった人たちをユーザーとして取り込みつつ、成長を続けています。

自動車サブスクリプションサービスには、主に次のようなメリットがあります。

  • レンタカーやカーシェアリングと違って、一度契約してしまえば、その期間はマイカーとして使え、予約や貸し出し・返車の手続きが不要
  • いろいろな車種を試すことができる
  • 購入に比べ初期費用が安い
  • 税金や車検費用がかからない

今は若年層がメインターゲットとされていますが、最近ではポルシェなどの高級自動車メーカーもサブスクリプションに乗り出していることから、今後は「いろいろな車種を乗り比べたい」という高所得者や自動車愛好家の需要増が期待されています。また、保有コスト削減を目的とした法人需要も増えており、これも市場拡大の大きな後押しとなるはずです。株式会社日本能率協会総合研究所のリポートによると、日本での自動車サブスクリプション市場は2025年までに500億円規模に成長すると予測されており、自動車業界においても「所有から利用へ」の流れは今後ますます加速していくものとみられています。