キャッシュレス決済事業者の新たな戦略とは?
2019年10月に迫った消費増税。増税後の消費の落ち込みを懸念して、政府はクレジットカードや電子マネーでキャッシュレス決済をした消費者に、ポイントを還元する制度をスタートすることを発表しています。還元率は、中小・小規模事業者の店舗では5%、コンビニやガソリンスタンドなど大手企業のチェーン店では2%。対象期間は2019年10月から2020年6月末までの9カ月間です。消費税率が2%上がっても、5%還元を受けられれば実質的な負担はむしろ軽減されることに。政府としては、たとえ期間限定であっても、増税によって国民に芽生える不満や不安感を抑えることによって、消費の落ち込みを防ごうというわけです。
政府によるこの還元制度の発表は、利用者の獲得を図る各キャッシュレス決済事業者にとって、非常によい呼び水となりました。「増税後もキャッシュレス決済は現金決済よりお得」とアピールし、各社が熾烈なユーザー獲得競争を繰り広げました。たとえば、ソフトバンクの運営するPayPayが「100億円キャンペーン」を2度も展開、大きな話題を呼びました。
その競争も一段落したかに見える今、各キャッシュレス決済事業者の戦略に新たな動きが見られるようになってきました。その一例が、楽天の戦略です。楽天は2019年5月にSuicaを運営するJR東日本との提携を発表。記者会見で「ポイント還元キャンペーンによる一過性の流行としてではなく、骨太なインフラアプリを作りたい」という姿勢を改めて強調しました。今回のJR東日本との提携では、スマホ決済アプリ「楽天ペイ」上で、Suicaを発行・チャージできるようになるほか、カードの代わりにスマホをかざせば、Suica対応の交通機関や小売店での支払いが可能に。「QRコード決済はわざわざスマホのアプリを立ち上げないと使えないので、Suicaなどに比べて使い勝手が悪い」という印象を払拭する形の提携であり、利用者の囲い込みではなく、あくまでも利用者の利便性を第一に考えた戦略となっています。
論点は「還元」から「使い勝手」へ
楽天だけでなく、これまで還元キャンペーンによるユーザーの囲い込み競争を繰り広げていた事業者も、その戦略の主軸を「使い勝手の向上」に移しつつあります。「100億円キャンペーン」で大いに注目を集めたPayPayは2019年5月に100億円に達したため、開始から3か月でキャンペーンを終了。結果、2018年10月のサービス開始からわずか7ヶ月で登録者累計700万人を突破、加盟店も60万店舗に拡大しました。6月からは地域や店舗限定の小規模なキャンペーンに切り替えて、まだキャッシュレス決済を使ったことのない層の囲い込みを進めると同時に、フリマアプリ「ヤフオク」やヤフーショッピングなどグループ内のサービスとの連携を進めて使い勝手を向上させ、「日常使い」できる決済手段として定着させていく方針を明らかにしています。各事業者は、「ユーザー数」だけではなく、「使い勝手の良さ」でも他社を引き離すことに成功しなければ、キャッシュレス決済市場での生き残りが難しくなる時代を迎えつつあるようです。
さらに今年秋には、これまで出遅れていた銀行系の事業者も本格始動。小売店店頭でスマホをかざすだけで、メガバンクや地方銀行など1,000以上の金融機関の銀行口座からの直接支払いが可能になる「Bank Pay」(運営:日本電子決済推進機構)もサービスをスタートすることになっており、消費増税を挟んで、キャッシュレス決済市場がどのような動きをみせるのか、当分の間、目が話せそうにありません。