写真右から安田 拓 氏(株式会社オプト メディア戦略部 メディアプロフェッショナル)、恵下 麻理子 氏(株式会社オプト メディア統括兼メディア戦略第1部長)、鶏田 薫(CRITEO株式会社 Head of Agency Sales & Partnerships)
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ゲスト 恵下 麻理子 氏(株式会社オプト メディア統括兼メディア戦略第1部長)安田 拓 氏 (株式会社オプト メディア戦略部 メディアプロフェッショナル)
聞き手:鶏田 薫 (CRITEO株式会社 Head of Agency Sales & Partnerships)
- ファーストパーティデータの収集・蓄積に注力
- 知識の蓄積と共有が、顧客満足度に繋がる
- 変わりゆく広告代理店の役割
- 地方EC市場の開拓、費用面のサポートも視野に
- これからの広告代理店に問われる「設計力」
ファーストパーティデータの収集・蓄積に注力
鶏田:Criteoは以前より、ハッシュ化したEメールアドレスをキーにしようとしています。おそらく、我々のようなオープンインターネットのプレイヤーはそれが中心になると思うのですが、日本の広告主企業の方々は、ハッシュEメールに抵抗がある方が多い印象です。御社の感触はどうですか?
安田:オプトの場合、個人情報保護法の観点に基づいたソリューションをがあり、他社よりも導入が進んでいます。
鶏田:御社ではIDソリューションは何か取り入れていますか?
恵下:法律が変わると利用できなくなる可能性があるので、使っていません。今のところ、注力すべきはファーストパーティデータをしっかり集めて蓄積することなのかなと思っています。
鶏田:すると御社の中でONE’s Dataが、かなり重要になってきそうですね。ONE’s DataとFeed Terminalで、多品目を取り扱うお客さんへの支援を進めていく感じでしょうか。
恵下:そうですね。データがあれば多品目商品における購買予測もファーストパーティデータと組み合わせられます。そうすると、入札など、クライアント独自の色が出せる指針ができるかなと思っています。
鶏田:ONE’s Dataならではの強みは、どんなところにあるのでしょうか?
安田:外部IDと繋ぐというよりも、その後、お客さまのサイトやアプリの外で消費者がどういう行動をしたのかまでのデータをインポートできる点が強みだと思います。最近では、広告主企業のオンライン上で完結しない最終成果を広告媒体に取り込み、広告配信へ活かす傾向が強くなっています。購買意欲の高いユーザーをシードデータとした類似オーディエンスリストなど、ONE’s Data とGA4を連携することでターゲティング配信できるような座組もあり、そのような取り組みが最近はその取組が良い事例になっていたりします。
鶏田:ONE’s Dataを入れる・入れないで、最終的な広告成果に違いが出てくるものなのでしょうか?
安田:やはり、ONE’s Dataを入れるとデータ欠損が少なくなって、結果として媒体のデータ回収量も増えます。お客様のサービスを利用する可能性のあるユーザーに対して広告配信する際にも、ユーザー一人ひとりにあった広告配信を実行しやすくなり、その結果、広告主企業の求める売上増加、新規ユーザー数増加などの最終成果につながっている事例もあります。
鶏田:ONE’s Dataは、どちらかというと大規模なエンタープライズ系のお客様向けなんですか?
安田:エンタープライズ系に限定しているわけではなく、中小規模のお客様でも導入しやすいプランもあります。ONE’s Data自体は他のDMPと比べて、広告プラットフォームのコンバージョンAPIに特化しているところもあって、全てのデータというよりも、広告に特化したDMPに近いんです。その分、価格を抑えられているんですよね。
恵下:ONE’s Dataの導入を推進すべく、ONE’s Dataの導入をサポートする組織もあります。Feed Terminalもそうなんですが、社内で開発~販売~実行機能まで持っていたほうがアップデートもしやすいので、セールスも含めて一貫してサポートできる体制を整えています。オプトの顧客企業のの多くはONE’s DataかFeed Terminalを導入されています。他のツールでは広告以外もサポート範囲にあり広告機能の優先度が落ちた結果、アップデートに対応できなかったりすることがあるので、オプト側がONE’s Dataへの乗り換え提案をさせていただくことが多いですね。
知識の蓄積と共有が、顧客満足度に繋がる
鶏田: ONE’s DataやFeed Terminalなどのソリューションが充実している点以外には、オプトさんの強みとしてはどんなことが挙げられますか?
恵下:データ設計ですね。ソリューションは、コンサルタントのデータ設計が命。例えば「タイトルにどういうものを入れるのか」、「在庫はリアルタイムで取れるのか」といったデータを、どう設計してフィードとして生成するのか。その最初の設計書を上手く描けるところが、弊社の一番の強みであると自負しています。
弊社の場合は、「商品データに入っていないものも、サイトにあればデータ計測をすることができますよ」とか、そういうことも含めて最初にご提案させていただきます。
具体的には、担当営業がお客様から商品データをいただいた後に、コンサルタントとデータフィードの専門スタッフがワンチームで検討しています。あとは、先ほどお話したAQSの内容と組み合わせてデータを設計していきます。
AQSが古い状態だと適切なデータ設計ができなくなってしまうので、できるだけ頻繁にアップデートをしています。最近は口コミとか星の数とか、計測対象となるデータの種類が増えているので、それらを反映する必要もあります。商品データベースにはないけれど、改めてサイトをクローリングしてデータを抽出して、2つのデータフィードを1つにするようなことにも対応しています。もう、複雑怪奇ですよ(笑)。
鶏田:AQSの担当者は責任重大ですね。ECに対する知識も必要ですし、データに関する知識も求められるわけですから。オプトさんでは全媒体を1人が見ているんですか、それとも、媒体ごとに担当者がいるんですか?
恵下:基本的には全媒体を複数名のコンサルタントで見ています。覚えることが多くて大変ですが、アパレルだとCriteoやGoogleショッピングがメインといった具合に、業界ごとに傾向が分かれており、コンサルタントの専門性を高めています。
鶏田:業界ごとに担当が分かれているイメージですね。さらに、新しい人が入るとまた最初から教えていかないといけない。
恵下:はい、そうです。社内にOJT教育担当がおりまして、つきっきりで教えていきます。Criteoさんの認定試験も活用させていただいています。アパレルECをはじめ、専門知識が問われる業務が多いので、知見の蓄積は確実にできていると思います。
鶏田:業界的に入れ替わりも激しい中、組織として知見を蓄積し社内で共有・伝承しているのは、すごいことだと思います。
恵下:ありがとうございます。蓄積した知見がしっかり伝承されるように、ビデオで記録に残して社内で共有するなど、意識して取り組んでいます。
鶏田:営業担当者がすごく優秀だと、その人が担当じゃなくなった途端、お客さんが離れてしまうこともありますよね。でもオプトさんのように組織全体が強くて優れていれば、仮に担当者が頻繁に変わっても、お客様に継続していただけますよね。
恵下:そうですね。これだけAIが進化してくると、ソリューションだけでなく人が提供するサービスがますます重要になってくると思うので、そこは大切にしていきたいと考えています。
変わりゆく広告代理店の役割
鶏田:今後、代理店さんの役割は変わっていくと思われますが、お二人はどう考えていらっしゃいますか?
安田:運用型広告について言うと、データの入れ方とクリエイティブに集約していくんじゃないかと考えています。データの取り扱いに関しては、これから機械学習がますます進化していくので、「どう機械学習をうまく扱うか」を考え、しっかり把握し提案、実装できる代理店が選ばれていくようになるのではないでしょうか。代理店の仕事も、経営コンサルタントや医師、弁護士と同じで知識勝負な面もありますから、知識をしっかり蓄積できる代理店が、今後ますます強くなっていくと見ています。
恵下:ただ、コンサルティングと実行支援の間の溝はすごく深いので、あまり心配はしていません。オプトは引き続き、一気通貫のサービスを提供するというところは変えずに、コンサルティングの部分では人の知恵を使ってしっかり伸ばしていきます。代理店というくくりではなくて、総合コンサルティング、マーケティングコンサルとして一定の地位を作りたいと考えています。
鶏田:この先の1~2年については、どんな展望を描いていますか?
恵下:業界に関しては、会社全体でEC業界周辺に注力していきます。さらに、よりプロダクトにも注力していきたいので、動画やLTVを加味した広告運用や、ミドルファネルといったところに注力したいなと考えています。
地方EC市場の開拓、費用面のサポートも視野に
鶏田: Criteoに期待することや一緒に取り組みたいこと、ご要望などあれば、ぜひ、お聞かせください。
恵下:データ補完の取り組みを一緒にできればすごくいいなと思っています。あとは、新規ユーザーの比率を上げるという点に関しては、先ほど事例がすごくよかったので、同じような取り組みを増やしていきたいと考えていますので、お力を貸していただけると嬉しいです。
中小規模の広告主企業のサポートを見据える中小規模の広告主企業のサポートを見据えるにあたっては、広告費分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」と中長期的に連携できると良いなと考えています。 AD YELLは広告費の分割後払いを可能にするサービスで、キャッシュフローを気にせず今すぐ広告投資を強化したいお客様にはとても便利なサービスになります。いろいろとルール整備が必要だとは思うのですが、もし連携できれば、費用面でも中小規模の企業へのサポートもさらに充実するのではないかと期待しています。
鶏田:面白いですよね、広告費に特化した後払いサービス。
恵下:BtoCのBNPLは国内外問わずプレイヤーが増えていますが、BtoBで、しかも広告に特化した後払いのサービスはまだ珍しいと思います。費用面での悩みを抱えている中小企業の方々は多いので、サポートを受けられるメリットの方がすごく大きいと感じていただけているようです。
鶏田:投資して新しいものに取り組めて、さらに売り上げも作れるんだったら、すごく有意義なことですよね。
恵下:そうですね。やはり、売れてからの債権回収はすごく大変だと思うので、何とかサポートできる体制を構築できればと思います。
鶏田:オプトさんはグループとして結構いろいろなことを手掛けられていますが、今後、デジタルホールディングスはどんな存在になっていくんでしょうか?
恵下:「新しい価値創造と通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する。」というパーパスのもと、幅広い産業のDX、そしてIX(産業変革=Industrial Transformation®)に取り組んでいきます。例えば、2021年には、新たに廃棄物・リサイクル業界向けのDXの取り組みを始めています。
鶏田:素晴らしいですね。特に廃棄物・リサイクル業界のDXは一筋縄ではいかないでしょうから、手を挙げた担当者の方は本当にすごいと思います。よほどの志がないとできないですよね。
安田:グループ内で、薬局業界の産業変革を目指す事業を手掛けるRePharmacyを立ち上げた代表は、お母さまが薬剤師だったのが原点だそうで、彼からもすごく志の強さを感じます。やはり事業を継続するには志を持つことがすごく大切なんですよね。
恵下:代理店はお客様の予算をお預かりしているわけですから、みんな責任感と使命感を持って臨んでいます。
これからの広告代理店に問われる「設計力」
恵下:最後に、私からも質問させてください。Criteoさんって、今後、どうしていくんですか?
鶏田:今、大きく2つの方針を掲げています。1つは、リテールメディア事業の強化です。リテールメディアは非常に大きな市場が見込める上に、リテーラーさんのファーストパーティデータをもとに広告を配信するので、サードパーティクッキーに依存しません。ポストクッキー時代には欠かせない広告手法になるはずですから、今後も引き続き注力していきます。2023年以降、まずは大規模なリテーラーに導入を推進すべく、目下準備を進めているところです。
もう1つは、リターゲティング依存からの脱却です。決してリターゲティングをやめるということではないのですが、事業全体に占めるリターゲティングの割合を減らして、ミドル、アッパーファネルを対象としたソリューションによる売り上げ比率を高めていきたいと考えています。ハッシュEメールでアドレッサブルな環境を構築したとしても、当然今のリターゲティング100%維持は絶対にできないので、そこが減っても他でちゃんとカバーできる状態、つまり健全なポートフォリオを作っていくというのが、この2年で取り組むべき課題です。
安田:SKAdNetworkなどもそうですけど、どんどん計測が個人を特定できないようにするために敢えて曖昧になってきていますから、その曖昧な計測をどう定義するかも、すごく大事です。全ファネルでどういうKPI設計でやっていくのか、という「設計力」が問われるようになってきていて、KPI設計ができる代理店しか生き残れない、といっても過言ではないと思っています。代理店としては、もっともっと勉強が必要になります。クライアント企業のビジネスをこれまで以上に深く理解しなくてはいけませんし、最新のテクノロジーに常にキャッチアップしないといけません。
鶏田:いろいろ大変ではありますが、Criteoも引き続きソリューションとサービスのブラッシュアップに努めてまいりますので、2023年も引き続き、デジタル広告のより良い未来のために、いろいろな取り組みをご一緒できたらと願っております。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!今日は長時間、貴重なご意見をありがとうございました。