人気商品も登場! 加速する食品ロス削減の取り組み

更新日 2021年12月29日

6人に1人が価値観の相違を理由にブランドの利用を停止

今や、日本社会にも広く浸透したSDGsの理念。経営方針やCSR活動に反映させる企業も増え、SDGsへの取り組みの有無が企業の価値や消費者からの評価を大きく左右するようになっています。事実、環境問題を始めとした社会問題に対する企業の姿勢は、消費者の購買意欲に大きな影響を与えることがわかっています。Criteoがアメリカの消費者1000人を対象に行った購入理由に関する調査でも、半数以上が「ブランドの価値観を考慮した上で購入を決める」と回答、さらに回答者の6人に1人が、「ブランドの価値観が自身の価値観と一致しなくなったため、以前よく利用していたブランドの利用をやめたことがある」と回答しています(※)。世界的な異常気象やそれによる大災害が続き、環境問題への意識がますます高まりつつある中、企業やブランドの社会的責任への取り組みは今後さらに大きく注目されることになりそうです。

※詳細はCriteo「ブランド認知度向上のためのクイックガイド:新規顧客に効果的にアピールする3つの方法」を参照

日本の食品ロスは年間約570万トン

こうした中、にわかに注目を集めているのが食品ロス削減への取り組みです。

農林水産省によると2019年度の日本のフードロスは約570万トン。国民1人当たり1日124g(茶碗1杯分程度)、1年に換算すると約45kgもの食料をロス(廃棄)している計算になります。気候変動や労働力不足などを理由に将来の食糧不足が懸念される中にあって、食品ロスの問題は持続可能な社会の実現のために世界規模で取り組むべき重要な課題の一つであり、世界各地で食品ロス削減に向けた取り組みが行われています。日本でも食品ロス削減の取り組みを「国民運動」として推進するため、2019年に「食品ロス削減推進法」が施行。翌2020年3月には、基本方針(食品ロスの削減に関する基本的な方針)が閣議決定され、食品関連事業者から発生する事業系食品ロスを、2030年度までに2000年度比で半減させる目標が設定されました。

こうした機運を受け、食品・小売り・外食の各業界で食品ロス削減への取り組みが加速しています。ここでは2021年に注目を集めた取り組みをピックアップして紹介しましょう。

1)ロングセラー菓子の「ふぞろい品」が人気商品に~江崎グリコ

食品大手の江崎グリコは2021年10月、発売以来50年超のロングセラー商品「ジャイアントカプリコ<いちご>」の製造過程で生じたふぞろい品を初めて商品化、「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」として販売しました。「ジャイアントカプリコ<いちご>ふぞろい品」は、製造途中にコーンが欠けてしまったり、チョコ部分に余分な空洞が生じるなどしたジャイアントカプリコが10個入って、希望小売価格は1箱735円。通常品のカプリコは1個100円前後なので、200円以上お得な価格設定となっています。つまり、形が少々ふぞろいであることを許容すれば、通常品と同じ美味しさのカプリコをお得に食べられる上に、これまで廃棄されていたふぞろいカプリコを食べることによって食品ロス削減にも貢献できるというわけです。このふぞろいカプリコの商品化は大きな話題を呼び、販売も好調。特に若い世代からの評価が高く、「味が同じならふぞろいでも何の問題もない」「すごく良い取り組み」というコメントとともにふぞろいカプリコの写真が投稿され、

拡散されました。グリコは食品ロス削減の取り組みを通じて、ブランドイメージの向上にも成功したと言っても過言ではないでしょう。なお、2021年12月現在、ふぞろいカプリコはグリコ直営店の一部でのみ販売されていますが、今後ECサイトでの販売も検討されています。

出典:江崎グリコプレスリリース

2)アプリ活用により3か月で約140kgの廃棄量削減に成功~ドトール

TABETEに出品されたエクセルシオールの商品例 出典:コークッキングプレスリリース

コーヒーチェーン大手・ドトールコーヒーは2021年8月下旬に同社が運営する「エクセルシオール カフェ」50店舗でフードシェアリングサービス「TABETE」を本格導入しました。TABETEは、消費期限間近な商品を値下げ販売したいお店と、お得に買いたい消費者を結ぶアプリで、次のような仕組みで利用することができます。

① アプリで利用した店を探す

事前に店を登録しておくと、その店で値下げ品が販売されることを知らせてくれます。

② アプリで決済する

食べたい食品や食事が見つかったら、アプリで事前決済します。

③ 店舗に行き、商品を受け取る

指定時間に店舗に行ってアプリの決済完了画面を見せ、商品を受け取ります。

ドトールでは以前から消費期限間近の商品の一部値下げ販売を行っていましたが、TABETEを活用することにより、単なる値下げではなく「食品ロス削減のための取り組み」であることが伝わりやすいことから、顧客の支持をこれまで以上に集めることに成功。またこれまで店舗を利用したことがない消費者にも、同社の食品ロス削減の取り組みを広く訴求することができるようになりました。その結果、2021年8月から約3か月間で、累計1,455食・139.38kgの食品ロス削減に成功しました。

3)食品ロス削減に特化した新ブランドを立ち上げ~オイシックス

出典:オイシックスプレスリリース

食品宅配大手・オイシックスでは、2021年7月に、これまで製造の過程で廃棄されてきた原料を、アップサイクル商品として販売する食品ロス解決サービス「Upcycle by Oisix」をスタート。第1弾として冷凍ブロッコリーのカット工場で花蕾をカットしたあとに残る茎を活用した「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」、大根の漬物工場で廃棄されてきた大根の皮を使った「ここも食べられるチップス だいこんの皮」を発売、発売後2か月足らずで約2.5トンの食品ロス削減に成功しました。この取り組みは大きな反響を呼び、一時は商品が完売になるほどに。オイシックスでは、その後もジャムやお菓子など新たなアップサイクル商品の発売を継続しており、3年以内には食品ロス市場が20億円規模になるとの見解を示しています。

このように様々な企業やブランドによる食品ロス削減の取り組みの加速は、消費者の立場から見ると「食品ロス削減に貢献できるものを買う」というショッピング体験の選択肢が1つ増えたことを意味します。2030年の食品ロス半減目標達成に向けて国家ぐるみでの取り組みが強化されるのを背景に、消費者の食品ロスへの意識は今後ますます高まってくることが予測される中、食品・飲食業界では食品ロスの取り組みが、ブランドイメージを高め、消費者の「共感」を獲得するために不可欠な要素となってくるかもしれません。