ライブコマース、日本の現状と課題

新型コロナウイルスによる外出自粛が続く中、小売業者と顧客とのリアルなコミュニケーションの機会が減っていいます。たとえば化粧品売り場では、感染防止の観点から、以前は当たり前だったタッチアップ(美容部員がカウンターで客に直接スキンケアやメイクアップを施すこと)がおこなえなくなり、客はメイク用品の使いごこちを試したり、使い方について美容部員に質問したりすることが難しくなりました。

今の時代、たいていの品物はいつでもオンラインで購入できます。しかし、実物を手に取って使い心地を確かめたり、店員との会話を通じて商品の長所や使い方のコツを確認したりできるのは、実店舗だからこそ体験できる買い物の楽しみでもあります。

そこで今、注目を集めているのが「ライブコマース」です。

ライブコマースとは、商品を紹介する動画をオンラインでライブ配信する販売方法のこと。動画では業者の社員やSNSのインフルエンサー、著名タレントなどがMCを務め、対象商品の概要や使い勝手、使い方のコツなどを紹介。視聴者は動画を見ながら商品について質問したり、画面から直接商品を購入したりすることができます。オンラインショッピングでありながら、実店舗での対面販売と同様に、販売側と購入者が直接リアルタイムなコミュニケーションをとれる点がライブコマースの最大の魅力。買い手側は臨場感ある買い物体験を楽しみながら、商品について理解を深めた上で、購入を決めることができます。

売り手側にとってライブコマースの最大のメリットは、コロナの影響で顧客との接点が減少する中にあって、新たな販売チャネルを得られること。特に多くのフォロワーやファンを持つインフルエンサーや人気タレントをMCに起用することによって、これまで接点のなかった新たな顧客層に自社商品を知ってもらう機会を得て、新規顧客獲得に繋がった例も多く報告されています。

ライブコマースはもともと中国で始まった販売手法とされており、2019年の中国におけるライブコマース市場は、なんと4338億元(6兆9408億円)にも上っており、なかには2時間で3億円を売り上げるインフルエンサーも登場。ライブコマースの人気はますます高まっています。巨大市場である中国での顧客獲得を狙う海外ブランドも次々にライブコマースに参入、2020年以降はコロナによる外出自粛を追い風に、世界各国でライブコマースが一気に普及しつつあります。

日本も例外ではありません。資生堂など大手ブランドが次々にライブコマースに本格参入し、話題を集めています。たとえばデパート大手の三越伊勢丹は2020年6月、人気アートディレクターやイラストレーターなど多彩なゲストを迎えて、お中元用の商品を紹介するライブコマースを配信。視聴者は3万人を超え、ライブコマースによる売り上げは過去最高を記録しました。

しかし、中国に比べると、日本ではまだ認知度・普及率ともに高いとは言えません。2019年にマクロミルと翔泳社(MarkeZine)が全国の男女1000人を対象におこなった調査では「ライブコマースという言葉を内容も含めて知っている」と答えたのは全体の4.1%、「聞いたことがある」を含めた認知度も21.9%にとどまりました。また、ネットショッピングのためのライブ配信を見たことがあると答えたのは全体の19.1%、商品を買ったことがあると答えた人はわずか3.3%でした。

日本でライブコマースの普及が中国ほど進まない理由としては、次の点が指摘されています。

  • 中国は偽物が売られていることが多く、ECサイトへの信用度が低いので、販売者の顔が見えるライブコマースのほうが安心して買い物ができる。
  • 国土が広く、実店舗での買い物が容易ではない場所に住んでいる人が多い
  • 実店舗の接客やサービスが悪いため、実店舗を避ける傾向が高い

逆に言うと、中国より偽物の流通が少なく、実店舗での接客やサービスが丁寧な日本では、ライブコマースへの実需が中国ほど高くないとも言うことができます。

しかし、2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響でECショッピングを利用する人が増えていることから、日本でも以前よりはライブコマースの利用が増えるのではないかとの声も聞かれます。新しい買い物のスタイルが定着しつつある今年は、日本でもライブコマースの成功事例が多く誕生するかもしれません。