海外ではホテルキャンセル率が6割にも。日本の夏休み旅行事情は?

更新日 2023年10月31日

ホテル予約、OTAシェア縮小続く

それなりに盛り上がった東京オリンピックも終わり、夏休みも中盤に。普段なら、お盆の帰省や旅行が楽しみな季節ですが、残念ながら日本は今年もコロナ禍の夏。ワクチン接種が進んでいるはずなのに、収束どころか日に日に感染者数が増え続けており、東京はじめ首都圏では4回目の緊急事態宣言下に。当初8月中旬までだった緊急事態宣言が月末まで延長されたこともあり、今年も昨年に引き続き帰省や旅行は難しい状況が続いています。

一方、日本よりも早くワクチン接種が進んだ欧米では、旅行業界にやや明るい兆しが見えてきていますが、その予約方法を巡って興味深い動きが出ています。

いわゆるOTA(Online Travel Agent)の市場シェアの縮小です。ホテル向けソリューションを提供するD-EDGE社によると、アジアではOTAのマーケットシェアは2021年には56%にまで縮小。会社別に見ると、ブッキング・ドットコムは2020年の35%から30%に、エクスペディアが8%から6%へとシェアを縮小しています。背景にあるのは、コロナ禍です。「旅行に行きたい!→でも、コロナ収束の先行きが見えないので、確実に行けるかどうかわからない→キャンセル料が発生しないOTAで予約→やはり行けなくてキャンセルする」といった消費者の行動により、OTAのキャンセル率が上昇、ヨーロッパではブッキング・ドットコムの予約のうち10件中6件がキャンセル、エクスペディアもキャンセル率が71%に上っています。少しでも多くの予約を勝ち取ろうと、キャンセル料金ゼロのプランを打ち出したことが裏目に出て、結果としてシェア縮小の事態を招いてしまうこととなっているようです。

もっとも、キャンセル率が高めなのはOTAだけではなく、ホテル等への直接予約の場合もキャンセル率は3分の1以上に上っています。キャンセル率の高さを見る限り、ワクチン接種が日本よりも進んでいる国においても、旅行市場がコロナ前の水準に回復するまでには、まだしばらく時間がかかりそうです。

約20%が「2021年の夏休みに旅行に行く」と回答

では、日本の状況はどうなっているのでしょうか?

旅行大手JTBがまとめた「2021年の夏休み(7月20日~8月31日)の旅行動向」によると、夏休み期間中に旅行に行くかどうかについて「行く(”行く”と”たぶん行く”の合計)」と回答した人は調査時点(2021年7月5日~9日時点)で19.8%と、コロナ禍前(概ね40%前後で推移)の半分程度にとどまりました。

性年代別でみると、男女とも若い年代ほど旅行意向が高くなる傾向がみられ、「行く(”行く”と”たぶん行く”の合計)」が男性29歳以下は31.6%、女性29歳以下は33.2%であるのに対し、男性60歳以上は14.2%、女性60歳以上は10.8%でした。

旅行に行かない理由としては、「まだコロナの影響で、旅行することに不安があるから(45.1%)」が最も多く、次いで「コロナウイルス新規感染者数が減っているとは言えない状況だから(37.1%)」、「コロナ第5波が心配だから(31.1%)」と続いており、旅行に行くかどうかの判断に新型コロナが大きく影響していることが見てとれます。一方で「治療薬やワクチンの接種が遅れているから」が17.1%となっており、ワクチン接種が進めば、旅行に行きたいと考えている人が一定数いることがわかります。

(表)2021年の夏休みに旅行に行かない理由

出典:JTBプレスリリース

JTBでは、

  • 緊急事態宣言下でも飛行機や鉄道などの公共交通機関の利用者数に大幅な減少が見られないこと
  • GoToトラベルキャンペーンに代わる県民割などの「地域観光事業支援」が35県(7月17日時点)で実施されており、感染拡大が抑えられている地域を中心に、地域内旅行が活性化していること、
  • 意識調査では、当初は「新型コロナが終息したら旅行を再開したい」と考える割合が高く、過去のパンデミックのように短期終息への期待があったが、コロナ禍が長引くにつれて、安心安全に配慮しながら旅行を再開したいという傾向に移っていること、などを理由に、「今夏の国内旅行者数は、一部地域においては抑制がかかるものの、昨夏を上回ることが予測される」としつつも、「大きく回復に転じているわけではない」と分析しています。

また、国内旅行の平均費用については、33,000円(19年比▲9.6%、20年比+3.1%)と予測しており、その理由について「域内旅行志向による平均泊数の低下、および将来不安による旅行費用の抑制傾向が見られる一方で、多少割高でも新型コロナの感染防止を優先する傾向と、観光・地域応援と連動した旅行先での食事やお土産の購入等から、一人当たりの平均費用(単価)は前年を上回ることが予測される」と説明しています。

首都圏への緊急事態宣言の延長、増え続ける感染者数、自然災害の多発など、国内旅行業界は依然厳しい状況におかれていますが、その打開策の1つとして注目されているのが、オンラインツアーです。

オンラインツアーが登場した当初は「バーチャルな旅行体験がリアルな旅行を阻害するのでは」と懸念されていましたが、今ではバーチャルとリアルな旅行体験が競合するものではなく、旅行前にオンラインで現地の人々と交流を持ったり、現地の様子を見聞きすることでリアルな旅行への関心が高まるメリットが指摘されています。

JTBが、夏休みの旅行予定者にオンラインツアーについて聞いたところ、「参加したことがある人」は9.2%、「参加したことはないが、興味がある、または参加したい人」は22.3%、「参加していないし、興味もない」人は68.5%となりました。一方、今後オンラインツアーに参加する場合の重視する条件について聞いたところ、「参加費(無料または低価格)」が15.2%で最も高く、「映像の美しさ(8.8%)」、「方面や行く場所の珍しさ・トレンド感があるかどうか(4.5%)」と続きました。最近では観光地のオンライン見学に終わらず、「地場産品のお土産がもらえる」、「一緒に料理体験もできる」など、多彩な内容のオンラインツアーも相次いで登場しています。「参加していないが、リアルな旅行は体力的に難しく、オンラインだと遠い場所に行けるので参加したい」や「参加していないが、予習旅として旅行に行けるようになったら参加したい」と考える声もあり、リアルな旅行とは異なる意義や役割がオンラインツアーに期待されていることが見て取れます。オンラインツアーはコロナの収束如何に関わらず、旅行先に関する情報収集等の「予習旅」として、また地域が旅行者とつながり続けるための接点づくりとして新たな地位を築き始めているようです。

出典:JTBプレスリリース