Vol.3 日本におけるリテールメディアの現状と課題

更新日 2024年04月11日

Amazon やウォルマートがいち早く参入・大成功を収めたのを機に、アメリカで急激に市場を拡大しつつある「リテールメディア」。サードパーティ・クッキーが不要なことから、ポストクッキー時代の切り札としても注目を集めており、日本でも参入する小売業者が相次いでいます。日本においてもリテールメディアは定着するのでしょうか。

リテールメディア市場に詳しいアタラ合同会社CEOの杉原剛氏をゲストにお迎えし、日本におけるリテールメディアの展望と課題について考察します。(3回目/全4回)

アタラ合同会社CEO、杉原 剛 氏 Criteo Sales Director、Japan 蓑輪 誠一、Criteo Head Of Retail Media、Japan 牧野 臨太郎

日本のリテールメディア市場、2027年には9332億円規模に

蓑輪:アメリカではすでに20年もの歴史があるリテールメディアですが、日本ではようやく2023年に「リテールメディア元年」を迎えた状況ですね。

牧野:そうですね。一部の小売業者がリテールメディア・プラットフォームの構築を始めているところで、メディアでも取り上げられるようになってきました。Criteo では2015年ごろから米国を中心にグローバルにリテールメディア向けのソリューション提供を開始していますが、日本では2022年にサービスを開始、現在7社(5社ライブ、2社インテグレーション中)のリテールメディア事業をサポートしています。

杉原:Amazon やウォルマートなどアメリカの成功事例を見てメディア側(小売業者側)の意欲は高まっていると思いますが、広告主側の予算投入が本格化するには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。広告戦略というのは経営戦略の中でも非常に重要な要素なので、経営者の理解が得られない小売業者は参入が遅れてしまうというリスクを孕んでいます。とはいえ、日本においてもリテールメディア広告市場の成長は総じて順調であり、その市場規模は2023年に前年比21.5%増の3625億円になると予想されています。さらに2027年には2023年の約2.6倍となる9332億円にまで拡大するという予測もあります。

牧野:ただ、日本がアメリカと同じように市場を拡大できるかというと、必ずしもそう言い切れない側面もあります。というのも、日本にはAmazonやウォルマートのような圧倒的な規模の小売業者が少ないからです。特にECについては楽天さんしかりヤフーさんしかりですが、いわゆる「マーケットプレイスモデル」が多いですよね。小さな小売業者が集まるマーケットプレイスにおいて、果たしてアメリカと同じような形でリテールメディアが成長していくかどうかは、今後、検証が必要になってくると思います。また、すでにアメリカでも「上位7社くらいしか生き残れないのではないか」と言われているとおり、小規模な小売事業者が多数参入しても、結局は淘汰されてしまうリスクが十分考えられます。criteoではお客様にこのあたりの課題についても共有し、期待感をコントロールした上で、「社内でリテールメディアに取り組む体制が整っている」、「すでに自社サイトで一定のトラフィックが確保できている」、「実店舗のデータも取れる」など、一定の条件を満たしている事業者のほうが成功しやすい旨を必ずお話するようにしています。実際、アメリカで成功している企業はこれらの条件を満たしているんですよね。

日本のリテールメディア、求められる人材は?

蓑輪:小売業者・広告主双方に言えることですが、経営トップ層のリテールメディアへの理解が進んでいない点も日本における課題の一つですね。特に小売業者さんはこれまで、ブランドから入って来るお金を「販促費」として捉えていて、広告費という発想への切り替えができていないケースも散見されます。

杉原:そうですね。概して日本企業は経営層のITやDX、マーケティングへの理解が乏しいので、これまでは、「ウォルマートが成功してるし、リテールメディアって儲かりそうだな」と興味を持っていても、なかなか投資のコミットメントにまで至らないケースが多かったと思います。やはり広告事業ってかなりコストもかかりますし、中長期的な視野での判断も必要なので、いざ投資となると二の足を踏んでしまうんですよね。ただ、最近はやっと少しずつ経営層にもリテールメディアへの理解が進みつつあって、それに比例してリテールメディア事業に参入する企業が増えてきている段階なのではないでしょうか。

蓑輪:参入が加速すると、人材確保がますます難しくなりますよね。杉原さん、リテールメディア業界の人材の動向について、日米で何か違いは見られますか?

杉原:リテールメディア事業を手掛けるためには、リテールとメディア両方についての知見と経験が求められます。よってアメリカではすでにリテールメディア事業を手掛けている企業(AmazonやGoogleなど)から人材を採用して、自社のリテールメディア部門の責任者に抜擢する例がよくあります。一方の日本では、そもそもリテールメディア事業を経験した人材がほぼ存在しないということもあり、まだメディアや広告業界からの採用は少なく、小売業界内での転職による人材獲得が中心となっているようです。参考までに、criteoさんはリテールメディア関連のソリューションを提供するにあたって、どのような人材を採用しているのですか?

牧野:リテールメディア事業経験者を積極的に採用しています。最近で言うと2024年1月にアメリカの大手デパートのメイシーズでリテールメディアのVPをしていた人材を採用し、リテールメディア領域のHeadに抜擢しました。彼女の知見や経験は日本の小売業者や広告主の皆さまが抱えるリテールメディア関連の課題の解決に貢献できるはずです。すでにcriteoのソリューションには、グローバル市場で培われたリテールメディア事業に関するノウハウが反映されていますので、これをご提供することによって日本のリテールメディア人材育成にも貢献できるものと自負しております。

「Vol.4 2024年、リテールメディアの好スタートを切るには?」に続く