DTC ブランドの新時代:「画一化」から「独自化」へ

DTC ブランド(オンラインで顧客と直接関係を築いて製品やサービスを提供するブランド)が活用するツールやチャネル、データはこれまでになく増えています。パフォーマンス・マーケティングやインフルエンサーとのパートナーシップ、サブスクリプション・モデルなど、かつては差別化要因だった戦略も今では一般化し、戦略そのものだけで抜きん出ることが難しくなっています。

チャネル全体で新規顧客獲得コストが上昇し、広告オークションでの競争圧力も強まる中、トラフィック獲得への投資を増やすよりも購買意欲の高い顧客を集めることが競争力を高めます。

では、こうした環境の中で勝ち残るブランドには、どのような共通点があるのでしょうか。勝ち残るブランドの共通点は、消費者のファーストパーティ・データを戦略的なアセットとして活用している点にあります。製品開発の方向性や展開エリアの拡大判断、そして実際のオーディエンスとのエンゲージメントに基づく販売促進まで、ファーストパーティ・データを多角的に活用しているのが特徴です。

現代においてブランドが成長するために重要なのは、ただ大きな声を上げて目立つことではありません。むしろ、誰に届けるブランドなのか、その特徴や対象が明確であることが鍵となります。リーチの価値は今も変わりませんが、時代は確実に「量より質」へと移行しています。情報があふれる環境の中で注目を集めるためには、規模ではなく精度――必要とする相手にどれだけ正確に届くかが肝心なのです。

情報があふれる今の時代、 DTC ブランドが注目を集められるか、それとも他のブランドに埋もれてしまうかを分ける重要なポイントになります。

伸びるブランドの特徴とは?

激しい競争環境で存在感を示すブランドの特徴を整理します。

データを強みにして差別化する

プライバシーを巡る変化により、企業はターゲティング・モデルの見直しを迫られています。一方で、顧客との直接的な関係を築いているブランドにとっては、より効率的で精度の高い広告運用を可能にする追い風にもなっています。

ショッピング・ジャーニーの流動性や断片性が増す中、消費者はこれまで以上に高い関連性パーソナライゼーションを求めるようになっています。DTC ブランドがこの点で優位性を持つのは、カテゴリー検索や商品とのインタラクション、購買といったサイト上の行動データに加え、店頭での購買を通じて得られる豊富なファーストパーティ・データを保有しているためです。こうしたデータは、変化の激しい環境下でも精度の高いマーケティングを実現する強みになります。

最近のテクノロジートレンドを踏まえると、ファーストパーティ・シグナルを継続的に収集し、適切に連携しているブランドは、新たな AI ソリューションを活用することで、消費者理解をさらに深めることができます。さらに、そのインサイトをもとに、パーソナライゼーションの質を一段引き上げた体験を提供することが可能になります。

Criteo では、こうした変化の大きさを肌で感じています。自社の商品データとファーストパーティ・データを組み合わせて活用するブランドは、より細やかなセグメンテーションが可能になり、適切な相手により良い形でリーチできるようになります。その結果、広告の関連性やユーザー体験が向上し、最終的にはコンバージョンが二桁成長するケースも生まれています。

AI を活用して消費者理解を深める

十分な顧客データがないまま推測に頼り続けているブランドは、最新の AI 予測アルゴリズムを取り入れているブランドとの差がますます開いていくはずです。

現代では、クリック数やページの閲覧回数だけでなく、実際の購入行動に基づいてトレーニングされた AI モデルにより、従来のセグメンテーションでは完全に見逃されていた、以下のような購入意欲のシグナルを検出できるようになっています。

  • 貴社サイトの訪問者の中で、どのユーザーが実際にコンバージョンにつながりやすいのか。そして、その理由は何なのか。
  • 新たに獲得した顧客の中で、現在も利用を続けている人と、3か月以内に離脱してしまった人。
  • 貴社がすでに活用しているプラットフォーム内だけでなく、オープンウェブ全体を含めて、最も価値の高いルックアライク・オーディエンスがどこに存在するのか。

しかし、この仕組みが有効に機能するのは、大規模なコマースデータを保有している場合に限られるという課題があります。

SNS の投稿や検索行動を見ると、貴社に興味を持っている人がわかります。しかし、AI で強化されたトランザクションデータを使えば、消費者が「実際に何を買ったのか」や「次に何を買いそうか」まで把握できるようになります。

ヨーロッパの大手ファッション・プラットフォームを例に挙げてみましょう。AI は、数百万件にのぼるウィッシュリストやカート情報といった膨大なデータを分析し、今売れているアイテムだけでなく、これから売れそうな商品まで特定しています。さらに、こうしたインサイトに人間の専門知識を掛け合わせることで、新たなファッショントレンドを予測することも可能になります。

AI を使ってインサイトを深く掘り下げる能力は、Z世代(主に1990年代後半~2010年代前半生まれ)やα世代(主に2010年代以降生まれ)の存在感が増すにつれて、さらに重要になっていきます。これらの世代はブランドへの忠誠心よりも“商品そのもの”を重視する傾向があり、すでに約 40% が AI をショッピングに使用していると報告されています。 そのため、パーソナライゼーションは「あると嬉しい」ではなく、「あって当然」と期待される要素になりつつあります。

つまり、ブランドがこれらの世代と同じように AI を使いこなせていない場合、AI を活用できているブランドに顧客を奪われてしまう可能性が高まります。

消費者起点でメディア戦略を多様化する

消費者は、オンラインの広範なタッチポイント(ウェブサイトやアプリ、ソーシャルフィード、コネクテッド TV に加え、存在感が増しているエージェンティック・コマース)にわたって行われる商品の発見やリサーチ、購入にさらなる時間をかけており、そのショッピング・ジャーニーは、これまで以上に流動的になっています。

Activate Consulting は同社のレポート「2026年のテクノロジーおよびメディアの展望」の中で、オンラインの消費者が商品のインスピレーションやリサーチにおいて平均4.8件のサイトとアプリを利用していると見積もっています。

消費者は特定の購入経路にこだわるのではなく、利便性・価格・信頼性・満足度といった要素を踏まえてオンラインとオフラインを切り替えています。

こうした消費者行動を理解しているブランドは、状況に応じてメディア投資を柔軟に分配しています。3大プラットフォームだけに予算を集中させるのではなく、消費者のショッピングジャーニーに合わせて最適な接点へアプローチ先を切り替えています。

また、重要なのは単にリーチだけではありません。どのような文脈でメッセージが届けられているかも重要です。コンテンツに没入して読む場面でのエンゲージメントは、流し見されるスクロール中心の場面とは明らかに異なります。オープンウェブは、ブランドが伝えたい価値や背景、つまりしっかりと語る内容を持っている場合にこそ、その魅力が伝わりやすい環境です。

今、多くのブランドはマーケティング戦略を見直しており、チャネル中心から消費者中心へとシフトしながらアプローチ全体を見直しています。

消費者がショッピングを楽しんでいる場に広告を表示するというアイデアはシンプルですが、その効果はオーケストレーション全体に波及します。全てのインプレッションが適切なタイミングで届けられ、関連性が高く、意図を持って設計されたものとして受け取られるよう、チャネル全体で予算を動的に配分し、最適化しましょう。

成長を促すブランドへの愛着とコミュニティづくり

DTC ブランドにとって、今では価格以上に重要になっているのが体験とストーリーテリングです。消費者は、商品を購入するだけでなく、自分の価値観や関心、アイデンティティと重なるブランドに共感し、選ぶようになっています。

ブランドとの感情的なつながりを生み出すうえで効果的なのは、自分と近い価値観やライフスタイルを持つ人たちが集まるブランドコミュニティに参加してもらうことです。イベントやランニングクラブ、体験スペースなどを通じてリアルな場での接点を持つブランドは、単なる取引関係を超えて、より深く意味のある関係を築くことができます。

限定アクセスやメンバーだけの特典、パーソナライズされた体験などのデジタルの特典を用意すれば、消費者との関係を深め、長く続く価値を生み出すことができます。

また、コミュニティをうまく活用することができれば、成長を支える役目を果たしてくれます。参加してくれたメンバーは、より頻繁に商品を購入してくれるようになり、新しいリリースを素早く導入してくれるだけでなく、価格に対する感度も下がります。

何より大きいのは、コミュニティの参加者自身がブランドの魅力を広げる存在になることです。口コミや SNS への投稿、体験の共有を通じて、新たな顧客との出会いを生み出していきます。

ファネル全体に影響を拡大

従来のマーケティング・ファネルでは、商品との出会いと比較・検討は別々の段階として整理されてきました。一方で、成果を上げている DTC ブランドには明確な共通項があります。両者を分断して捉えるのではなく、コンテキストと影響力を重視した、一貫性のあるアプローチとして統合している点です。

これは、消費者の行動に照らしてみればごく自然なアプローチです。商品の発見から検討に至るまでの変遷が流動的であり、ブランドを初めて認知した接点で、そのままコンバージョンに至ることは実際にほとんどありません。

ただし、ブランドのことを知らないオーディエンスにリーチし、初めての商品購入を後押しした後、リピーターになってもらうという戦略そのものは変わっていません。これまでと違うのは、ファネル全体で統合されたアプローチを行うという戦略の実施方法のみです。

重要なのは、適切な文脈とタイミングで影響を与えることです。関心を引きつける動画と、感情に訴えるストーリーテリングによって、購買意思決定に働きかけることができます。そしてもうひとつ重要なのが「関連性」です。適切な商品を、心に響くメッセージとともに、最適なタイミングで届けることが求められます。

消費者が商品を購入する方法は十人十色です。だからこそ、画一的なアプローチよりも、パーソナライズされたアプローチが重要になってきます。さらに今、生成 AI の活躍により、このような高度なパーソナライゼーションを大規模に展開することが可能になりました。

ショッピング・ジャーニー

AI を活用したコマースメディアのビジネスチャンス(および DTC に与える影響)

DTC の次の成長局面で優位に立つのは、リーチの範囲が最も広いブランドではありません。消費者の関心が複数のチャネルに分散する中でも、その購入意欲を結果につなげることができるブランドです。

消費者行動の断片化は、マーケターにとって複雑性を高める一方で、明確な機会も生み出しています。コマースメディアは今、購買意思決定に影響を与えるあらゆる接点でブランドが適切に存在感を示せるようにする、パフォーマンスの基盤として台頭しています。さらに、その効果を実際の事業成果に結びつけて測定できる点も大きな特長です。

これこそが、コマースメディアが特に優れている点です。分断されたエコシステムに対して、全体を横断して機能する統合的なインテリジェンス・レイヤーを提供できます。

2026年に頭角を現すのは、ストーリーテリングとコマース・インテリジェンスを組み合わせ、一つひとつのインプレッションを意味のある接点として届けられるブランドです。

インテリジェンス・レイヤー

コマースメディアは、消費者の購買履歴や次の購買意向といった最も重要なシグナルを、マーケティング施策と結びつける役割を担います。

また、ファーストパーティのコマースデータや購入意欲に関するシグナルを AI を活用した意思決定と組み合わせ、数十億もの消費者データや商品データ、および数兆規模の取引データを網羅する膨大なコマースデータセット全体に大規模に適用します。

コマースメディアが従来のアプローチと根本的に異なっているのは、高度な AI により、複雑かつ分断されたデータセットから購入意欲に関するシグナルを見つけることができるという点です。AI は購入意欲の予測に加え、クリエイティブや表示する商品の選択をリアルタイムでパーソナライズし、トラッキングシグナルが少ない環境に適応しながら、チャネル間で最適化を実行できます。

差別化を目指す DTC ブランドにとって、この能力は大きな強みになります。自社のファーストパーティ・データは AI モデルのトレーニングデータとなり、今後も改善され続けるため、消費者の購入意欲が高まったタイミングでキャンペーンを消費者に届けることが可能になります。さらに、クリック数をはじめとする複数のコマース成果に、測定結果を直接紐づけることもできます。

「インテリジェンス」と「影響力」が差別化のポイントとなり、ブランドが競合との差別化を図り、独自のポジションを確立するための重要な要素になります。

2026年に差をつけるための戦略

ここからは、2026年に向けて特に注視すべき戦略についてわかりやすく解説していきます。

ステップ1:予算集中のリスクを査定し、チャネルの多様化を進める

まずはメディア支出の状況を把握することから始めましょう。予算の70%以上が2~3個のプラットフォームに集中している場合は、他者と同じ競争環境に依存している可能性が高いです。その結果、同じ条件下での競争が激しくなり、コストが上がりやすくなる一方で、ブランドとしての違いも打ち出しにくくなります。

予算の集中を見直したら、次に検討すべきなのは、「多様化の影響が最も色濃く出るのはどの部分か」また「ブランドとしてどの接点で目立たせたいか」について考えましょう。商品の発見から購入までの道のりをマッピングし、段階に関わらず、インスピレーションを与えられるタイミングを見極めましょう。重要なのは、どの接点でどのようなメッセージを届けるかです。

最後に、市場環境の悪化にも耐えられる戦略かどうかを検証しましょう。その持続可能性を継続的かつ正確に見極めることが重要です。顧客獲得コストの上昇率が顧客生涯価値(LTV)の成長率を上回っている場合、現行のアプローチは長期的に持続しません。課題が顕在化してから対応するのではなく、先を見据えて進化させていく必要があります。

ステップ2:自社のデータを最大限に活用する

DTC ブランドは、活用可能なシグナルを拡充し、それらを長期的に育成するための投資を優先すべきです。そのためには、限定アクセス、デジタルレシート、優先配送など、データ提供の対価として消費者が納得できる価値を明確に提示することが不可欠です。収集した情報は、検索履歴・商品閲覧・カート追加・購入・返品・オフライン行動といった多様な行動や取引シグナルと統合し、より高度な分析・予測につなげていく必要があります。

重要なのはシグナルの活用です。前述のシグナルを統合し、実用的な顧客ビューとして整理したうえで、インサイトの抽出や意思決定に生かしていきましょう。 AI を活用した分析ツールの普及により、 DTC ブランドは、消費者理解をより深めながら、新規顧客の獲得や長期的なリピーター育成に向けた精度の高い判断が可能になっています。

では、次に考えたいのは、インサイトをどのように効果的に活用するかです。リターゲティングにとどまらず、ファネル全体に働きかけるために活用していきましょう。大切なのは、メディアプラン上の順番に合わせることではなく、消費者がそのときいる場所や状況に合わせて、ふさわしいコンテンツをタイミングよく届けることです。

まさにこの点において、データとパーソナライゼーションは「あればよいもの」ではなく、パフォーマンスを左右する中核的な要素となります。

ステップ3:チャネル全体で最適化する

マーケティング戦略を見直し、チャネル中心のアプローチから消費者中心のアプローチに変えましょう。ウェブサイトやアプリから、ソーシャルフィード、コネクテッド TV、AI ショッピング・エージェントとのやり取りまで、消費者がショッピングを楽しんでいる場に広告を表示すること自体はシンプルです。しかし、成果を左右するのは、その接点をどう全体として設計し、オーケストレーションするかにあります。全てのインプレッションが適切なタイミングで届けられ、関連性が高く、意図を持って設計されたものとして受け取られるよう、チャネル全体で予算を動的に配分し、最適化しましょう。

また、各施策で追う KPI を達成しながら、LTV のような全体目標にもつなげていけるよう、施策をまたいだ形で予算配分を柔軟に最適化していくことが重要です。

DTC における今後の差別化

パフォーマンス・マーケティングやインフルエンサー・パートナーシップ、サブスクリプションなど、DTCの初期成長を支えた戦略は、すでに市場に浸透しており、もはや差別化要因ではなくなっています。

2026年の成長機会は、自社データを活用して意思決定を高度化し、ショッピング・ジャーニー全体で接点を構築し、単なる露出拡大ではなく、消費者の関心を獲得するストーリーテリングを実践できるブランドにこそもたらされます。

過熱したオークション環境に依存しなくても、ターゲティングやリーチ、測定を可能にするコマースメディア、ファーストパーティ・データを高度なインテリジェンスへと変える AI、そして、これまでとは違うものを積極的に求めるオーディエンスにアプローチできるオープンウェブなど、必要な基盤はすでに整っています。

2026年に抜きん出るのは、最も大きな予算を持つブランドではありません。同じ競争環境にとどまるのではなく、自らの意思で他社と異なる価値を築き始めたブランドです。