AI は旅行を変えたのか?──データで読み解く「意思決定ジャーニー」の新常識

 AI は本当に「旅行」を変えたのか?

「8月でも涼しい避暑地を教えて」

「予算10万円で行ける海外旅行は?」

「京都は混雑しそうだから、ほかにおすすめは?」

今年は、検索エンジンではなく生成 AI に相談しながら旅先を探している人も多いのではないでしょうか。そのためか、「 AI が旅行会社の仕事を奪う」「検索エンジンは不要になる」といった議論も聞かれるようになりました。しかし、データを詳しく見ていくと、実際に起きている変化は少し違うようです。

 Criteo が発表した「旅行トレンドレポート 2026年7月版」によると、日本では旅行先探しに AI を利用している人は48%、旅行全体の計画に活用している人は45%に達しました。一方、航空券の予約に AI を利用している人は19%にとどまっています。

この数字は非常に示唆的です。

 AI は、確かに「旅の入り口」にはなりました。しかし、まだ「出口」にはなっていないのです。 AI は顧客に選択肢を示すだけであって、「このホテルに泊まろう」「この航空会社で予約しよう」という最終判断まで担っているわけではありません。

比較はむしろ複雑になった

旅行市場そのものは堅調です。同レポートによると、2026年第1四半期の航空分野の予約数は前年比8%増加しました。一方で、 OTA (オンライン旅行代理店)のコンバージョン率は前年比7%低下しています。

旅行需要は回復している。それなのに予約率は下がっている。

この一見矛盾したデータは、旅行者の行動が変わったことを示しています。
以前なら、旅行者の行動は検索⇒比較⇒予約、という比較的シンプルな流れでした。

ところが現在は、 AI で候補を探す

⇒ SNS で旅先の雰囲気を確認する

⇒ YouTube で街歩き動画を見る

⇒口コミを読んで評判を確認する

⇒ OTA で価格を比較する

⇒ホテルや航空会社の公式サイトでキャンセル条件を確認する

⇒もう一度AIに戻って別の候補を聞く……といった、より複雑な流れに変化しています。

旅行者は、一つのチャネルで意思決定しているわけではありません。複数の情報源を行き来しながら、自分にとって最も納得できる選択肢を探しているのです。

 Google は2020年、こうした消費者の行動を「 Messy Middle (メッシー・ミドル)」と名付けました。商品を認知したあと、「探索」と「評価」を何度も繰り返しながら購入に至る消費者の意思決定プロセスを示した概念です。生成AIの普及によって、このプロセスはさらに加速したように見えます。というのも、AIは一つの答えを示すのではなく、「こんな旅もあります」「こちらもおすすめです」と、次々に新しい選択肢を提示してくるからです。選択肢が増えれば人はもっと比較したくなりますし、もっと納得して決めたくなるもの。 AI の登場によって、私たちはより迷いやすく、コンバージョンまでに時間をかけるようになってしまったようです。

AI 時代、顧客との出会いのきっかけも変化

この変化は、旅行マーケティングにも大きな示唆を与えています。従来は、「認知→比較→購入」というファネルをいかに効率よく通過してもらうかが重要でした。

しかし AI 時代には、その前提が変わります。

旅行者は、 AI 、 SNS 、口コミ、 OTA 、ブランドサイトを自由に行き来しながら意思決定しています。

つまり、勝負どころは「予約の瞬間」だけではないということです。比較・検討という長いプロセス全体に、ブランドがどう関われるかが問われています。 

 AI の普及によって変わったのは、旅行者の比較・検討プロセスだけではありません。ブランドと出会うきっかけそのものも変わり始めています。これまでは、検索結果で上位に表示されることや、 OTA ・比較サイトで目立つことが、旅行者との最初の接点でした。しかし、生成AIは複数の情報を整理・要約し、旅行者の質問に対して候補を提示します。つまり、旅行者はブランド名を知らないまま、 AI の提案を入り口に情報収集を始めるケースが増えていくと考えられます。

だからといって、「 AI に選ばれること」だけを目指せばよいわけではありません。重要なのは、 AI が参照する情報や、旅行者が比較・検討するさまざまな接点において、「このブランドなら信頼できそうだ」と感じてもらえる情報を積み重ねていくことです。

したがって、広告の役割も変わります。予約を促すためだけではなく、比較・検討のプロセス全体を支え、旅行者の意思決定を後押しするコミュニケーションへと進化していくことが求められます。

例えば、 AI で旅先を探している段階では、新しい発見につながる情報を。口コミを読み始めた段階では、利用者のリアルな声や安心材料を。予約を迷っている段階では、キャンセルポリシーやサポート体制、公式サイトならではのメリットを。

旅行者が「今、何を知りたいのか」に応じて情報を届けることが、これまで以上に重要になります。そのためには、ファネルを最適化する発想ではなく、ジャーニー全体を設計する発想が求められます。

AI 時代にブランドが競うべきものは?

 Expedia Group が2026年に発表した「The AI Trust Gap」では、 AI を旅行計画に活用する旅行者が増える一方で、68%が「 AI ではなく、信頼できる旅行ブランドで予約したい」と回答しています。つまり、 AI は旅先を提案できる一方でブランドを信頼する理由までは作れていないということです。だからこそ、ブランドが競うべきなのは広告の量ではありません。旅行者が比較したいと思った瞬間に、比較したい情報を届けられるか。

迷っている旅行者の背中を押せる体験を提供できるか。

そして、「このブランドなら安心して任せられる」と感じてもらえる信頼を積み重ねられるか、です。

 AI 時代になっても、最後に予約ボタンを押すのは人です。本当に変わったのは、旅そのものではなく、顧客が意思決定に至るプロセスです。マーケターに求められるのは AI を理解することではなく、 AI を活用しながら旅を選ぶ顧客の行動や心理を理解することではないでしょうか。そして、顧客一人ひとりのジャーニーに合わせて最適なコミュニケーションを設計すること。それこそが、 AI  時代の旅行マーケティングに求められる視点と言えるでしょう。

そして、この変化は旅行業界だけの話ではありません。家電や自動車、金融、不動産など、比較・検討に時間をかける高関与商材ほど、 AI は顧客の意思決定プロセスに深く入り込んでいくはずです。こうした時代にマーケターに求められるのは、 AI という新しいテクノロジーそのものを追いかけることではありません。 AI によって変化した顧客接点や意思決定ジャーニーを理解し、それぞれの接点で顧客が求める情報や体験を適切なタイミングで届けることです。

 Criteo は長年、オープン・インターネット全体に広がる顧客接点を捉え、一人ひとりのジャーニーに寄り添ったコミュニケーションを支援してきました。 AI によって顧客の意思決定プロセスがますます複雑化する今、その一つひとつの接点を理解し、最適なタイミングで価値ある体験を届けることの重要性は、これまで以上に高まっていくでしょう。それこそが、 AI 時代にマーケターが果たすべき役割なのではないでしょうか。

このような視点をさらに深めたい方に向けて、 Criteo の最新レポート「旅行トレンドレポート 20267月版」では、数百の旅行事業者のオーガニックデータと、日本を含む主要6ヵ国・6,000人超の旅行者調査をもとに、今押さえておきたい日本市場の動向を詳しく分析しています。 AI 時代の旅行マーケティングのヒントを得たい方は、ぜひ本レポートをご覧ください。